新たな出会い

第38話 : 大規模展示会前夜

 翌日、早く寝すぎたせいで朝4時過ぎに目が覚めた。

 健康的とはこの様な暮らしを言うのだろう。

 とは言え、カラダが少々動かしにくい。うん、俺の右隣に誰かいる。

 この寝息とシャンプーの香り、間違いなく智鶴だ。

 俺は一人で寝たはずなんだが・・・・


「あ、優治さんおはようございます」


 って、どうしてここで寝てるんだ。


「テヘへ、優治さんの体が心配で来ちゃいました」


 んっ、そう言えば下半身に違和感がある。いつもと違った何か締め付ける感じ。朝だから元気なはずの愚息がぎゅう~っと縛られているような・・・・

 パジャマのゴムを伸ばして下を見ると、何と包帯でぐるぐる巻きにされた哀れな棒状のものが眼に入る。こんなこといつやったんだ。


「ズボンを脱がせても全然気が付かないのは問題だと思いますよ」


 いや、俺の所に勝手に入ってきて、服を脱がす方が大問題だろ。

 お前が男で俺が女だったら警察に通報されてるぞ。


「きちんと消毒をしないといけないと思ったから、お薬と包帯を持ってきました」


 じゃーんとばかりに体温計、消毒液、ガーゼ、伸縮包帯、テープ、サポーター、ゴム製品、赤マムシ・・・・そんなものが並んでいる。

 はダメだと言ってるのに、最後の二つは何なんだ。


「こんなに大きいと痛いでしょ」


 そりゃあ、内側から圧力が掛かってるからそれなりに痛みはある。


「ふふ、キツそうですね。小さくしてあげましょうか」


 こら、やめろ。先っちょだけでも気持ちいいでしょって、そう言う話じゃない。

 トイレに行けば元に戻るから。


 結局、強制的に口の中に出させられた。

 尿意を我慢しながらこういうことをするのはどうかと自分でも思う。

 俺の意志が弱いというか。智鶴が強引すぎるというか。

 結婚したら絶対尻に敷かれるよな──それも悪くはないんだろうけど──干からびそうだ。


 軽い朝食を用意してくれた彼女は朝の支度があるからと言って帰って行った。

 元気満々の様子だったが、こっちは朝から無理矢理抜かされると疲れがどっと沸いてくる。

 これがお互いその気なら全然問題ないんだけどな。ふう。



「鬼城院さん、おはようございます」


 出社すると鈴華の挨拶が心地よい。

 が・・・・お茶を運んでくれる時、俺に限って胸を当ててくるのは修正されていない。

 朝のこともあるし、今の下半身の状態もあるし、そこはあまり嬉しい状態ではない。

 バグではないが、早く直して欲しい。お前のせいだと開発二課あっちからはモノが飛んできそうだけど。


 キャンプで皆多少日焼けしたのだろうか、それぞれ真っ白だった肌が少し赤みを増している。

 そんな顔を見ながら週の打ち合わせをする。

 今週は千葉の幕張で行う大規模展示会への参加予定がある。

 鈴華をはじめとしたプロトタイプ三体を持ち出し、大々的にPRする予定だ。

 参加は智鶴以外のチーム全員。智鶴は他チームの仕事と留守番を任されている。


 鈴華以外の二体は絶世の美女の外観に艤装されている。

 俺が怒られた後、プロ連中がちゃんと作ったものだ。

 どんなアイドルよりも完璧な外観だと思う。リアルでこんな人間がいたら誰しも振り向いてしまうだろう。顔もスタイルもため息が出るほど美しい。


 この三体に事務服を着せ、パンフレット配りをさせる。

 ただし、鈴華以外は大きめのマスクを着けさせる。売り出し開始時のインパクトを出すためには仕方がない措置だという。

 PRの他に簡単な説明くらいならアンドロイド自身で問題なくできるから仕事としてはさほどハードではないだろう。


 前日に三体を連れて自社のブースで最後の打ち合わせ。

 DVDにパンフレットに商談用のテーブル・・・・あとは特別な顧客用に軽い飲み物を用意。

 これで明日は大丈夫だろう。



 出展する他社の方々がこちらをチラチラ見ている。

 アンドロイドを作っているのはウチの会社だけではないので、他の会社はと見れば美女は美女でも光っていない。ただ表面をなぞったような外見だ。

 その点、ドルオタを集めたと言われるウチの艤装部門は違う。骨格設計の良さもあって、他社製品と比べれば一目瞭然、鈴華も含めて瞬間で視線を捉えるだけの魅力がある。マスクがなければの話だが。


 この手の展示会はマスコミやネットで流されるから目立ったものが勝ちだ。

 鈴華の笑顔がそれを教えてくれている。


「鬼城院君、そっちはどぉう」


 間地代理が豊かな持ち物を“ブルンッ”と揺らしながら色っぽい声で訊いてくる。

 会場は暑いので皆薄着だ。首回りが大きく開いたブラウスから見える谷間の深いこと!


「完璧です。ウチにはアンドロイド美女軍団がいますから」


 そう言いながら眼は胸元をガン見してしまう。


「じゃあ、大丈夫ね。水琴さんも今日は終わりにしましょ」


 上体を回す時の双球の揺れ具合と色っぽさはアンドロイドもかくやの美しさだ。

 その膨らみに顔を挟まれる自分を想像し、にやけた顔をしながらその場を後にした。


 その顔をアンドロイド三体がじっと見ていることも知らずに。

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