第37話 : 男しかわからない痛み
間地代理が帰っていった。
とんでもないところを見られたものだ。
プライベートだから怒られる話ではないはずだが、それでも褒められることをしていた訳ではない。
明日から智鶴ともども頭が上がらないな・・・・・・
それにしても愚息が痛い。
こんなことになったの中学生以来か。あの時は水泳の授業が終わって着替え中だったっけ。
この歳になって、こんな所でチャックに噛ませるなんて。
絆創膏が妙に気持ち悪いし、もう最悪だ。
智鶴にだって後で何を言われるか。暫くは静かにしてないと。
間地代理に訊かれた水琴については、正直恋愛感情はないんだよな。
大事な仲間なのは間違いない。でも智鶴とのような関係になりたいと思ったことは一度もない。
確かに俺が知る限り一番の美女だし、顔だけがアイツの価値ではないことはよく知っている。それでも恋愛となると違うんだよな。
水琴は仕事はもちろん、それなりの家事ができるはずだし、気配りが全然ダメだと言うこともない。あくまでも智鶴と比較しなければの話しだが。
その尺度だと相手が智鶴じゃ水琴に勝ち目はない。
智鶴と水琴じゃ努力のベクトルが全然違うから比較しようがないし、単に俺の好みだけの問題だから、水琴がここを直せば俺が好きになるという話でもない。
たぶん、エッチ以外で水琴が智鶴と全く同じことをしても俺は水琴を好きにならない。それが相性というものじゃないだろうか。
一線を越えたら──そんなことは智鶴と付き合っている限り絶対にしない。もう一度自分に念押ししておく。
俺は絶対に浮気しない。
股間の痛みで眠気が完全に吹き飛んでしまった。
聞こえるのは川のせせらぎと僅かな虫の声。スマホのバッテリーが切れたので、あとは自分との対話しかできない。
会社のことや智鶴のこと、今日起こったことを一時間ほど反芻していたら眠くなってきた。
明日も運転しなければならないから、とにかく眠りに着こう。
翌朝は痛みで目が覚めた。
そりゃそうだ。成年男子たるもの、朝はある部分がとても元気になるのだ。
カチカチになるほど皮膚が伸びれば、傷口も広がる訳で──痛い痛い痛い。
よくよく患部を見ればそれはそれは酷い状況。全治一週間はかかるだろう。
智鶴にはよく話をしておかないと。ここで理性が負けたら病院行きになってしまう。
朝食は頼んでおいたサンドイッチのセットが届いていた。
これに自分達でスープを暖めれば完成。キャンプも随分お手軽になったものだ。
女性陣は朝から化粧バッチリで、熱いスープで体を温めている。
さすがに朝は涼しく、自分も厚手の服で食事を摂っている。
「チェックアウトが10時だから、それまでに片付けましょ。それから少しだけ観光してから帰りね」
間地代理が今日の予定を確認して、各自束の間の自由行動。
「優治さん、歩き方が変よ」
後始末をしている時に智鶴に指摘され、昨日のことを話した。
一週間は我慢することを伝えたら、顔面蒼白になり、泣き出してしまった。
さすがにこの状況をあの二人には見られたくない。
「ま、まあ、落ち着け。それ以外のことなら何でもできるから」
「それが大事なのに」
涙声でそう言われても困る。俺のベッドが血の海になりそうだ。
「ま、昨日のことは俺も悪かった。気持ちが良すぎて我慢できなかったから」
「グス・・グス・・ワァァン」
本当に泣いてしまった。
「鬼城院、お前・・・・晴宗さん相手に何してる」
ま、こうなるわな。
水琴に見つかって、問い詰められるが、もちろん全部話す訳にはいかない。
「ちょっと石にぶつかって」
咄嗟に智鶴が話してくれた。この心遣い、助かるし、だからコイツは人気があるのだ。
「あら、智鶴ちゃんどうしたの?」
間地代理までやってきた。
「ケガをしてるの?それじゃ周りを見て歩けないわね」
結局、チェックアウト後にバーベキュー場のテーブルでトランプをして遊ぶことになった。
中学生みたいだけど、これはこれで親睦は深まったんだと思う。
智鶴も機嫌を戻したし、水琴も元気なようで一安心。
お昼前にこちらを出発して、途中、皆でラーメンと餃子の昼食。
お腹がいっぱいになったのか、俺以外の三人は寝てしまっていた。
横に座る間地代理の寝息が色っぽい。さすがに“歩く色気”と言われるだけのことはある。
後ろに座る水琴も智鶴も口を開けて、可愛いイビキを車内に響かせている。
顔もスタイルも全然似ていないけど、まるで姉妹みたいに綺麗なハーモニーだ。
俺も眠かった、何度も首が縦に揺れた。が、耐えた。本当によく耐えた。
渋滞を抜け、午後六時過ぎに帰り着いた。
安堵のせいか、八時前に寝てしまい、智鶴も来なかったため、平和な朝を迎えられる・・・・はずだった。
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