第33話 : テントで寝る相手

 水琴に起こされて、ヨダレまで拭かれた。小さな子供みたいで恥ずかしいことこの上ない。

 夕食は皆で焼きそばコンクールをするという。

 学生だった頃に合宿でそんなことをした気がする・・・・キャンプなんていくつになってもやることは一緒か。


 巨大な鉄板を二枚使い、その半分をそれぞれが使う形で焼きそば作りが始まった。

 どんな味付けにするかはここに来る前に皆で決めている。

 間地代理がソース味、水琴が塩味、智鶴が餡かけで俺がそれ以外。

 それ以外って、どんな味があるんだ?


「鬼城院君、期待してるからね」


 間地代理にそう言われ、散々考えて作ったのがこれ、激辛味だ。

 隣で作業をする間地代理が麺にビールを豪快にかけて焼いているときに、俺はワインをかけ、さらに具だくさんのラー油、一味唐辛子、柚子胡椒を混ぜて強烈な辛さのものを作った。

 焼いている煙が眼に入ると痛い──ソースの香りを負かすほど刺激的だ。


 それぞれが二人前を作り、その他に少量の肉と野菜を焼いてバーベキューもどきを始める。


 どれも美味しい。特にダイスカットしたトマトを入れた間地代理のものと、パセリやレタスなどの香味野菜を上手に使った智鶴のものは見た目も味も大満足。ビールもお酒も会話も進んでいった。水琴はノンアルコールで我慢させたが。


 が、俺が作ったやつだけは・・・・あまり箸が進んでいない。

 自分としてはうまくいったつもりだったのだが。


「「「辛すぎて、食べられない」」」


 辛さの好みは人それぞれ。俺はこの程度でも全然平気なんだけど。


「でも、優治君が心を込めて作ってくれたのだから、もうちょっと食べようよ」

「いや、そこまでしなくても」


 ダークマターを食べるような顔をしないで食べて欲しい。

 いいよ、俺が全部食べるから。


 デザートにと智鶴が持ってきたパイナップルを食べ(美味かった!)、周りが真っ暗になってきた。

 満腹になって、さっき起きたばかりなのにまた眠気が襲ってきた。

 俺ってこんなに単純だったっけ。



 テントは現地のスタッフが設営してあるので、後はシャワーを浴びて寝るだけになっている。

 シャワーだってきちんとした建物の中に用意されていて、ワイルドさは感じられないとはいえ、非常に有り難いし、特に女性陣は安心だろう。


 3~4人用のテントを二人ずつで使う予定だ・・った。

 当然、俺は目の前の三人の誰かと一緒に寝る・・・・訳ではなかった。


「いくら大人どうしても間違いがあると困るからね、優治くん♥」


 間地代理の鶴の一声で、俺は車中泊、間地代理が一人で、水琴と智鶴で一緒にテントを使うという世にも恐ろしい案になっている。

 あの~、俺の車キャンピングカーじゃないんですけど。


「朝ご飯作るの免除してあげるから」


 水琴の容赦ない言葉。そういうことじゃないだろ。だいたい俺はドライバーだからちゃんと寝ないとマズいんだから。


「私、免許があるから運転できるよ」


 智鶴、お前免許を取ってからハンドルを握ったことがないって言ってただろ。

 ウインクして誤魔化すな。そんな奴に運転させられるかぁ!


「仕方ないわね。優治君、私のテントに来る?」


 あの~、間地代理、それはそれでもの凄~く問題はあると思うのですけど。


「じゃ、皆、一緒に寝ましょ。私のテントで四人、仲間はずれはなしでいいでしょ」

「「いいですよ」」


 えっ、お前達全員良いの?

 それもどこか違うんじゃないの。


 すったもんだの挙げ句、俺が一人でテントを使い、残りの三人で一緒に寝ることになった。

 これが普通の結論だ。たぶんだけど。

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