第26話 : 視覚と嗅覚
朝、会社の最寄り駅を降りたらやたら目に付く格好の女がいる。
遠目でもオシャレだとわかる服を纏い、ヒールの音を響かせてお尻を少し振り気味に歩いている。
首のラインが綺麗に見えていて、後ろ姿だけなら相当の美人だ。
智鶴も後ろから見ると凄い美人なんだよな。そう言うと今日も寝かせてくれないと思うけどね。
どこの会社へ行くのだろうと思っていたら、俺と同じビルに入っていくのが見えた。
俺の会社にはああいう感じの人はいなかったはず。朝一で営業にでも来た人なのだろうか。
そんなことを考えながら部屋に入ったら、目の前に水琴の奴がそういう格好で座っていた。
ライムグリーンのブラウスと白地に淡いベージュのチェックが入ったスカート、ハイヒールを脱いでサンダル姿にはなっているけど、それ以外はまさしくさっき見たまんま。
髪型も変えていて、かなり高い位置でポニーテールにしている。そして脇に下げている髪には絶妙なラインでウェーブが入っている。首筋が綺麗に見えて、スレンダーな水琴によくマッチした少し長めの首のラインがなんとも妖艶だ。
でも、いつも白黒ファッションだった水琴がこんなにカラフルになるなんて何かあったのか?
「鬼城院、おはよう」
いつもと変わらないぶっきら棒な水琴の声をいつになく優しく感じるのは、ルックスが変わったせいもあるのだろう。
白黒の戦闘服からフェミニンな優しい女性になった感じ。ふんわりしたデザインのブラウスが良く合っている。
「水琴さん、おはよう」
いつもより少し遅めに間地代理が出勤してきた。
彼女は職場では俺達のことを名字で呼ぶ。朝、そう呼ばれることで仕事モードに入る自分がいる。
「間地さん、水琴さん、鬼城院さん、おはようございます。お飲み物はどうされますか」
鈴華が挨拶と飲み物の確認に来る。
「「「コーヒーで」」」
三人で綺麗にハモってしまった。
ほどなく鈴華が手許に置いてくれる。そして、今日も俺の肩を揉みに来た。
さすがにあの”ブルン!バシッ、フニャ”をまたやられたら社会的に死ぬことは確実なので、今日は大丈夫だと断った。
開発二課の皆様には頑張ってプログラムの修正をお願いしたい。
智鶴は別件で他のチームに行っているから、今日は三人だけでの仕事だ。
「ねえ、鬼城院、このパンフレットなんだけど」
来月出展予定の展示会で使うパンフレットについて水琴が脇に来る。
昨日のような肉体的接触はないけど、凄く心地よい香りが漂ってくる。
俺が知る限り極めて珍しいことで、水琴に何があったのかと心配するレベルだ。
「ここの文言、AIの専門家の目で見て合ってるかな?」
一段と体を寄せてくると、それはそれはクンカクンカしたいほど芳しい香りが脳内を支配してくる。これがフェロモンという奴なのだろうか。
それと同時に大きく開いた胸元からとても慎ましやかな双球がチラ見できる。
先日は眼福でも何でもないと思っていたが、ツルペタとは言えそれは女性のセクシーポイントだ。視覚と嗅覚から股間が刺激されてくる。
香り一つでこんなにも感じ方が違うなんて。
あれっ、いつも水琴は首元がしまったブラウスを着ているのに、どうしたんだ。ついでに俺のカラダも・・・・
智鶴に搾り尽くされているはずなのにおかしい・・・・
「どれどれ、私にも見せて」
間地代理が反対側から体を寄せてくる。
こちらは特大サイズのメロン並みのものが堂々と見えている。
水琴ほどの香りはしないが、もう視覚だけで充分意識が奪われてしまう。
俺って、いやオトコって、こんな刺激で駄目になるほど程単純な生き物だっけ?
「問題ないと思います」
そう答えるのが精一杯だった。
二人がいなくなってから見直すと大事なところが二カ所間違っていた。
慌てて印刷業者に修正の原稿を送ったが、ならば早く言って欲しかったと一言注意された。
俺が悪い──のか。だよな、俺が悪い──そうかも──いや、あの二人が悪いんだよ!
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