第25話 : 怒濤の買い物(水琴視点)
間地代理に連れてこられたのは如何にもセレブ様が使っているという感じの美容院だった。さりげなく上品な入り口のカウンターで予約してある旨を告げると、イケメン!という感じの男性に案内されて、椅子に座らされた。
間地代理はイイ女にしてとだけ言って、離れて行ってしまった。
私の希望は・・・・誰も聞いてくれないのね。
それから2時間程かけて、私は大変身した。
髪型一つでこんなにも違うのだろうか。
肩下まである私の髪は普段なら適当に束ねておしまいにしている。
朝の手入れは三分で終了。無駄な時間はいらないのだ。
化粧も三分。適当に化粧水と乳液を塗って、あとは口紅を軽く。最低限のマナーだけで充分だ。
洋服だってそうだ。白いブラウスかTシャツの上に黒のジャケットを羽織る。下はスキニーの黒いパンツ。いつも同じ。
スカート?一枚だけあるけどそれはどうしても履く必要がある時だけに使うもの。そう言えば去年は一度もタンスの外に出していない。
靴は黒のローファーだけ。だってヒールだと早歩きできないでしょ。
移動は最短時間で。これってビジネスの鉄則じゃないの。
それが、今はどうだ。
髪はこれまでのように一つに束ねられている。しかし、束ねる位置や束ね方が違うだけでこんなにも印象が変わるものだとは知らなかった。
さらにはごく軽いウェーブをかけていて、うなじの脇に掛かる髪が色っぽく見える。
女の私が見てもそう思うのだから、男性は言わずもがなだろう。
自分でやる手入れやら束ね方を習って美容院を後にした。
いくら掛かったかは知らないけど、間地代理に支払いを固辞された。いいのだろうか?
それから私達はもの凄く荘厳な扉の奥にあるブティックに来ていた。
世界中から厳選したものだけを集めたセレクトショップだという。
「間地様、お待ちしておりました」
「お願いしておいたもの、用意できてますか?」
「大丈夫です」
間地代理はかなりの常連らしい。
それから着せ替え人形よろしく何枚も何枚も試着させられた。
「これじゃギャルよ」
「ロリータじゃないからね」
「どうしてこんなババア臭いの出してくるの」
間地代理からのダメ出しが凄い。お店の人はもう涙目になっている。
「ま、こんなとこかな」
結局オーケーが出たのは店に入ってから二時間近くが経ってからだ。
買った物はブラウス三枚とスカートが二枚、5センチほどのヒールが二足。それと香水を一瓶。
金額はチラ見しただけで二十数万円だ。間地代理が私が引っ張り出したのだから大丈夫だと言って、結局一円も払わせてもらえなかった。
「あとで仕事で返してもらうから」
「私、それほど優秀じゃありませんよ」
「それは貴女が判断することじゃないわ。私にとって優秀だと思える仕事をしてもらうから」
心苦しいけど、それだけ期待してもらっているのだろう。明日から頑張らねば。
最後はここよ、と連れてこられたのは誰もが名前を知るデパートだった。アクセサリー売り場に行くと外商の方が待っていてくれ、イヤリングとネックレスを選んでくれた。
正直、私はこういうものを着けたことが一度もなかったのだが、さっき間地代理が選んだ服にはとても似合いそうだった。
「これだと派手ね。ナチュラルな方が彼女に似合うでしょ」
「カラーストーンの使い方が下手ね。ギャルみたいよ」
「このパール、何だかお葬式で使うやつみたいね」
またまたダメ出しの連続だ。が、さすがはデパート次から次へとものが出てくる。
結局、イヤリング二組とネックレス二本を購入して怒濤の買い物は終わった。
支払いは──間地代理のブラックカード。初めて見たけど、これ、ウチの会社くらいの給料では持てるものじゃないでしょ。
あの噂(社長の愛人)って、本当にそうなのかも。
「栞菜ちゃん、明日は今日買った物を身に付けてくること。これ、約束よ」
「わかりました」
「ふふ、皆の目線が楽しみね」
間地代理の目が不気味に輝いていた。
でも、本当に明日その格好で会社に行くんだよね。大丈夫かなぁ。
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