第24話 : テジャヴ(間地視点)

 朝、鈴華ちゃんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいたら、もの凄い光景が目に入った。

 鈴華ちゃんが優治くんの肩を揉んでいる。巨大な胸を彼に当てながら・・・・

 昨日のテジャヴを見ているのだろうか。


 優治くんは戸惑いながらもまんざらでもない様子で、感触を楽しんでいるようにさえ見える。

 何があったのだ?

 私には全く理解できず、呆然と見ることしか出来なかった。


 周りの皆からも視線が集まっている。

 水琴さんが出社してきて、挨拶も途中で優治くんの方を凝視している。

 これはさすがに問題になる。


 AIについては知らないことばかりだけど、もし鈴華ちゃんの行動の引き金が私だとしたら、昨日は明らかにやり過ぎだったのだろう。

 私だってあそこまでしたのは本当に久しぶりだったから加減を間違えたのだと思う。反省だ。


 優治くんが課長に呼ばれて怒られている。

 ま、エロ行為をしたのは鈴華ちゃんだけど、引き金は私が引いたのだろうだから責任は感じている。

 優治くんが昨日のことを全て説明したのなら私にも当然お咎めが回ってくる。それは覚悟しておかないと・・・・


 色々と説明しているみたいだけど、最後まで私に声は掛からなかった。

 優治くん、ありがとうね。



 さて、朝から色々あったけど、今日の午後は栞菜ちゃんと一緒に有給休暇を取ってある。

 栞菜ちゃんの外観をガラリと変えるためだ。


 栞菜ちゃんはもともと凄い美人だ。私のように化粧や服装で誤魔化さなくても、素材としては超一級のものを持っている。

 ところが、それを活かす工夫をまるでしていない。

 まるで、「素が美女なのだから放っておいてもわかるでしょ」と言わんばかりの状態だ。


 これが二十歳そこそこなら全然問題はないけど、三十路目前となれば話は別だ。

 きちんと手入れをしないとあっという間に劣化する年齢に入ってきているのは自分の経験から否が応でもわかる。



「間地代理、ここは?」

「答える前に一つ。外で『代理』って呼ばないでくれるかな。これ、何回目かのお願いよ」

「すみません、間地さん。それでここはどういう所・・・・」

「ここは私が行きつけの美容院よ。貴女の外観を今日は徹底的に改造するから」

「はい?」

「アラサーはアラサーらしくあるべきだと言うことよ」


 全く、スキルアップ以外のことには本当に無関心なんだから。

 スキルはお金を稼がしてくれるかも知れないけど、オトコを連れてきてくれないよ。それじゃ勿体ないのよ。


「いらっしゃいませ。間地様、お待ちしておりました」


 イケメン美容師がお出迎え、良い気分だけど今日は私のことじゃないのよね。


「今日は私はいいから、彼女を徹底的にやってちょうだい」

「かしこまりました。どのような感じにいたしましょうか」

「イイ女よ。とにかくそれに尽きるわ」


 あとは彼に任せて、私は、と。

 スマホでこれまた行きつけのセレクトショップに連絡を入れる。


「アラサーの後輩が着るモテ服を見繕っておいて欲しいのですけど」

「わかりました。好みの色とかはありますか」

「凄い美女だからどんな色でも合うわ。でも、白と黒はやめてね。それと、私と違ってとてもスレンダーな体型だからあまり色っぽいのはマズイかもね。その上で職場でも使えるやつがいいわね」

「承知しました」


 ふう、手が掛かるわね。

 ま、これで見違えるようになるでしょ。

 優治くんが良いきっかけになって、栞菜ちゃんが少しでも変わってくれればいんだけど。



「間地様、こういう感じになりましたが」

「全然問題ないわ。支払いは私がするから」

「ありがとうございます」



 さ、次へ行かなきゃ。明日の職場が楽しみになってきたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る