第5話 : 美人の酒癖

 水琴は美人と評判で、実際に顔ばかりでなく、とても足が長くスレンダーな(バストは極めて平板だが)スタイルも申し分なくて、水琴の上司である間地代理とツートップで社内を代表する美女だ。

 学生時代はおろか社会人になっても、モデルのスカウトに何回も声を掛けられたらしい。

 仕事も出来る。同期の中でも社内での知名度は間違いなくダントツのトップだ。


 が、実は年齢=彼氏いない歴=三十路間際の処女という残念美人なのだ。


 もちろんしっかりした理由はある。それも複数。

 その一つが・・・・




「おい!鬼城院!飲め!」

「テメ~、アタシの酌じゃ飲めねえだと!」

「聞いてくれ!アタシに何で彼氏ができないんだよ!誰か言い寄って来いよ。処女くれてやるから!」


「グスン・・グスン・・アタシってダメな女・・・・」

「ワァ~ン、どうして彼氏ができない・・・・アア~ン」


「ほら、胸を揉んでみろよ。オトコは皆そうしたいんだろ」

「ええい、面倒くさい、パンツ見せてやるよ、それなら抱きたくなるだろ」

「お前のアソコ、たまには生殖器本来の用途として使ってやれよ」



 そう、コイツの酒癖は最低最悪を通り越して、誰もが呆れる超々々々々最低最悪なのだ。

 コイツの恋人になれば、もれなくこの酒癖が付いてくるから誰も近づきたくならない。


 怒り上戸、泣き上戸、下品な下ネタ、ベランメエ調の言葉遣い・・・・

 ビール中ジョッキ半分でこうなってしまうくせに無類の酒好き。


 なぜ俺がそれを知っててコイツの誘いに乗ったかと言えば、愚痴をこぼせるのが今や俺以外残っていないことを知っているからだ。

 コイツに恋愛感情を持っているとか、カラダ目当てだとかそういうことでは全くない。


 俺も鈴華の開発中はほとんどストレスの解消手段がなく、とても辛い思いをしたので、水琴の心情は良く理解できる。だからこうして聞き相手をしている。


 とはいえ・・・・・・


「お前の所の“残念ちゃん”、なんであんなにブスなんだよ!見てるだけで腹が立つ!」


 ひどい言い方だ。鈴華はお前ほど酒癖悪くないぞ。相手が本物の女性ならそんなことを言えばセクハラで即クビになってもおかしくないだろ。


「女の価値は見た目だけじゃないだろう」

「当たり前だ、だからアタシだって仕事をきっちりやってるんだ。顔だけの価値で生きてんじゃない」


 自分の見た目の価値は知ってるってことか?


「“残念ちゃん”よりアタシのが良いオンナだって教えてやろうか」

「鈴華は女の形はしていても女じゃない。動く人形だってお前だってわかっているだろ」

「うるさい!男は女のカッコしていて、動いていれば皆アソコがデカくなるんだろ。ふざけてる」


 もう顔は真っ赤で、目が据わりかけている。

 辛うじて聞き取れるものの呂律もまわっていない。

 周りの迷惑になる位の声量で話しているので、もうこの辺りが限界だろう。

 水琴が頼んだジョッキに残っているビールを俺が飲み干して店の外に出る。


「水琴、帰るぞ」

「うっさい!このドスケベ男」

「はいはい、いいから服を着ろ」


 コイツのマンションは知っている。何せ俺と同じ所だからな。

 しょうがない、送るしかないか。


 千円あればタクシーで家まで帰れる。

 コイツの肩を抱いて、タクシーに乗り込んだら、大股開きで座った途端にイビキが聞こえてきた。

 この姿を見たら誰の下半身も元気にならないだろう。

 容姿だけで好きになるほど男は馬鹿な生き物ではないのだ。

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