第4話 : 会社のワンツー美女
翌日、出勤すると自分の部署が大変なことになっていた。
鈴華を一目見ようという野次馬が押し寄せていたのだ。
俺が所属している開発部は企業秘密が沢山あるため、普段はここの部員以外はほぼ誰も来られないくらい厳しいセキュリティチェックが入るようになっている。
そんなチェックポイントの前で遠目にでも鈴華を見ようと人が溢れている。
野次馬根性に呆れるし、コイツらは全員ヒマだと思う。
こんな騒ぎがしばらく続いた後、やっと仕事に集中できるかと思ったのも束の間、二人の女性がうちの部署にやって来た。
「鬼城院、『残念ちゃん』のこと教えて欲しいのだけど」
随分偉そうな物言いで俺に話してきたのは
その後ろにいるのは
そんな社内のワンツー美女が俺の前に立ち、鈴華についての話を聞きたいと言ってきている。
「私達が『残念ちゃん』の販売計画を作るのだから当然でしょ」
水琴は渉外部販売企画課の所属で、そこは見本市等のイベントへの参加やウチの商品の販売戦略を立てたりする販売部門の中枢になるところだ。
そこで鈴華のことを担当することになったらしい。
何が『残念ちゃんだ!』と少し怒りを覚えたが、ここは仕事場だ。二人を相手に一通りの説明をした後、質問を受けると当然ながら最初の話題は鈴華の容姿となる。
正直に自分の失敗だと言ったのだが、まさか水琴をイメージして鈴華をデザインして、未熟さ故にああなったとは言えなかった。自分が経験不足でやってみたらそういう結果なったというのが精一杯だった。
呆れられるかと思いきや、間地代理はそれならそれで鈴華の売り出し方があると微笑みながら言ってきた。
「これまでのアンドロイドは絶世の美女しかいないでしょ。その常識を変えれば良いだけの話よ。外見に頼らない機能としての価値観をとことん追求したとアピールすれば良いだけの話よ」
ポジティブ思考とはこういうことか。
確かに知る限り醜女のアンドロイドなんてなかったと思う。美醜なんて個人の嗜好にしか過ぎないのにそこに拘るなんてナンセンスなのではないかと、間地代理の言葉を聞いて自分も少しだけ前向きになれた気がする。
「鈴華ちゃんをヒット商品に出来るかどうかは私達の腕に掛かっているのよ。ね、水琴さん」
同意を求めて水琴の方を向いた時の間地代理はゾクッとするほど色っぽかった。首元が広く開いたブラウスのせいか、うなじのラインが大胆に見えて、その下には胸元の深い谷間がしっかり見えている。目の毒になる光景だ。
情けないことにこの一瞬で俺の下半身が反応してしまった。仕事中だというのにマズイ。
「もちろんです。間地代理が言われたように『残念ちゃん』の将来は私達がしっかりと道筋を付けます」
水琴が鈴華と呼ばないのは俺への挑発だろうか。
まあ、まさか自分がモデルだと知ったらさすがに『残念ちゃん』とは呼べないだろうが。
「水琴ちゃん、鈴華ちゃんはれっきとした商品になるのだから、ちゃんと名前で呼ばないとダメよ」
「はぁい」
「じゃ、鬼城院君、これで失礼するわね」
「鬼城院、またね」
意味深なウインクをして水琴は席を立った。
『仕事終わったら飲みに行こ』
自分の机に戻ったであろう水琴からシンプル極まりない言葉だけのメッセージが送られてきた。
とある理由でアイツにとってこの誘いが出来るのは俺しかいないことを知っているから、社内メールで『わかった』とだけ送っておいた。
それからは普通に仕事をこなして退社の定時を迎えた。
少し前ならこれからが仕事の本番だなどと言って気を引き締めたものだが、解放された今はやることがなくて困る日もある。
正直なところ水琴と飲むのは気が乗らないが、アイツの愚痴を聞いてやる人間は今や俺しかいない。人助けでもあるかと思い飲み屋へ向かった。
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