第2話 : 美女という項目は必要ない

「残念アンドロイドって奴ですよね」


 後輩の言葉を否定できない。


 顔の各パーツはとても綺麗だ。

 大きな瞳に少し垂れた感じの二重瞼をした眼、すっきりと筋が通ったやや高めの鼻、小さく薄いけど艶感が半端ない唇、やや面長の顔枠の中にそれらはある。


 この表現だと凄い美女のように感じる───のだが、正直言って配置がおかしい。

 あらゆるパーツが中央に集まりすぎている。

 小顔を意識して作ったのだが、パーツだけ寄せてもアンバランス感が際立つだけになっている。


 カラダも裸体だとかなりおかしい。

 胸は巨大だが、盛り上がりはじめが肩のラインすれすれで不自然だし、おへそ周りがへこみすぎている。その割にヒップラインが所謂出っ尻になっていて、横からのシルエットがアメリカンコミックに出てくる女性のようになっている。

 ボンキュッボンには間違いないけど、普通の人間ではまずありえないだろう体形だ。


 こういうものを作るには造形の経験とか技能とかが物を言うのだろう。

 マウスで適当にワイヤーフレームのモデルをいじっただけでは、思い通りの綺麗な姿になる訳がないのだと思い知った。


 さて、どうするか。

 これから本体に皮膚を着けて接合部分の処理をするのに半日かかる。

 明日から自分の部署でテスト利用が始まることは確定しているので、今更新しい外装を作っている時間はない。


「このままでを被せます?」


 ”残念ちゃん”という言葉にカチンときた。

 

 そりゃ想像と違っていたものが出来上がったことは確かだ。

 美人かどうかと言われれば、十人中九人は違うと言うだろう。カラダの造りも目立ちはするけど整っているとは誰も言わないだろう。

 でも、自分の子供だってそうじゃないか。

 美男美女の両親から美男美女が生まれるとは限らないし、容姿が整っていないと言うだけで育児放棄して良い理由なんてある訳がない。


 容姿に多少難がある子供を他人から残念だなんて言われたら誰だって頭にくる。

 目の前の彼女の外装は間違いなく俺が生みの親だ。

 それに対してそういうことを言うかぁ?


 外皮だけ、醜女であっても、愛情も愛着も全然ないという訳ではない。

 ならば意地でも目の前の“残念ちゃん”を被せて、俺の力でその残念な部分を打ち消してやる。

 人は見た目が全てじゃない。アンドロイドだって見た目が全てじゃない。

 それを実証するのもテスト利用の目的にしたって良いじゃないか。

 ウチの会社だって美人ばかりいる訳じゃないし、実際、ほとんどは実力で評価されているのだから・・・・


 美女を作るつもりで失敗した奴が何を言ってるんだと突っ込みが入るのを承知で、俺は返事をした。


「このままの姿でやってくれ」


 今に見ていろよ、お前にだって“残念ちゃん”とは二度と言わせないからな。

 その決意を強くして、俺は自分の部署に向かった。



鬼城院きじょういん主任、ちょっと」


 小言が多い課長から呼び出しが掛かった。


「明日からテストで来るアンドロイド、もう出来上がってるんだろ」

「はい、今朝確認してきました」

「ふふ、どんな美人が来るのか楽しみだねぇ」


 鼻の下をだらんと伸ばして、どうでもいい話を振ってくる。

 だいたい事務補助型のアンドロイドなんて、男でも女でもどうでもいい代物だ。

 来客の接待やら荷物運びやら書類の整理やら、この部署のクリエイティブではない仕事全般を任せるためにそこに置いてあるだけの代物なのだ。

 女性型である必要性は全くないし、美女である必要性なんてどう探しても合理的な理由が見つからない。


「アンドロイドは美人ではありません」


 そう言うと課長は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をした。

 そして、頭からトマトジュースを掛けたごとく赤い顔になった。


「どういうことだ!」

「申し上げたとおりです」

「美人じゃないアンドロイドなんて価値がない!」

「それ、セクハラでしょ」

「アンドロイド相手にセクハラなんてあるものか!だいたい俺は毎日美女が見られると思ったから今回のテストに合意したんだ。お前、わかってるのか!」


 コイツは本物のバカだ。

 アンドロイドの本質が何もわかっていない。


「優秀なアンドロイドの条件に美女という項目は必要ないことを教えてあげます!」


 そう言って、憮然としながら俺は自分の席に戻った。

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