天気

 珈琲の湯気を見て溜息を一つ。薄目で時計を眺める。聞こえてくる馴れない音に注意が引く。一週間の天気をキャスターが読み上げる。


 多言語の勉強が嫌いだった。耳に頼るより見ることが好きだった。

「ガスパール、先生を困らせるのは君の価値を下げることだよ?」

「日曜日に『ポンペイ最後の日』の展示会が開かれるよ。一緒に行こうね」

「知ってる?彼はねローマに行ってから名が知られるようになったんだよ」

小さな弟をあやす兄に弟は、お腹の音で返事をした。


 時計を見て目を見開く。冷めた珈琲を飲んだのは英語のことわざ辞典だ。地域雑誌は辞書を眺めて笑う。今週の特集、パリでの裏路地の店ーーーーーー


題:ひとつ、またひとつ



・明日はお天気<Demain il fera jour.>フランスの諺

日本語訳:明日は明日の風が吹く。


・歳月人を待たず<Time and tide wait for no man>英語の諺

日本語訳:人はすぐに老いてしまうものだから、二度と戻らない時間をむだにしないで、努力に励めよという戒めを含む


・ポンペイ最後の日

『ポンペイ最後の日』は、イギリスの作家エドワード・ブルワー=リットン が1834年に発表した歴史小説。西暦79年、ヴェスヴィオ火山の爆発により火山灰に埋もれて消滅したローマ帝国の町ポンペイを舞台に、正義と悪の相克、様々な立場の登場人物たちの行動を経て、最後に火山の大爆発によるカタストロフによって幕を下ろす。


・カール・ブリューロフ

フランス人の両親の元にサンクトペテルブルク生まれた。幼年時代からイタリアへ絵を描きに行きたいと思っていた。己の名をあげるためロシアを発ち、ローマへ向かい、1835年まで滞在して肖像画家として活動した。芸術家としてのブリューロフの栄誉は、彼が歴史的題材を描いたことから始まった。


・書きたかったシチュエーション

汝の前の2.3月の冬の出勤前の朝にお天気キャスターが変わってふと兄に言われた事を思い出す。回想が長くていつの間にか時間が過ぎて慌てて家を飛び出すシーン。

絵が見るのが好きで解説が外国語だったとしても見るものが全てに感じてた幼少期のガスパ。家での家庭教師とトラブになってお仕置き部屋に入れられた腹を透かした彼に兄貴訪ねてくる。好きな絵師も外国の小説を推しで書いたんだよと兄から告げられ衝撃を受ける。その後言語の楽しさにのめり込んだ。一つに集中するのではなく視野を広げることで明日に先送りする事より今を生きるのが板についたのもこのエピソードから。でも、未来の予定を作る楽しさを知っちゃったっていうオチ。ひとつ、またひとつ彼女と行きたい見せたい共有したいことが増えていく。

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