第319話

(確実に骨まで到達した。だが、この一撃で終わると再生能力で直ぐに再生される。だからこそ――――)

「――ここで確実に仕留めにいく」


 逆手で持っている状態の右手をパッと開き、振り抜いたロングソードの柄から手離し、本来の持ち方である順手じゅんてに持ち替える。そして息吐く間もなく、目にも止まらぬ速さでもって、右脇腹から左肩に向けての左切り上げの一振りを放つ。

 漆黒の炎をいとも容易く破られ、右切り上げの一振りによって大きく深く切り裂かれたオーガは、困惑と驚きによって思考が停止して動く事が出来ない。そして、身体に真っ直ぐに吸い込まれる様に、左切り上げの一振りがその身体を綺麗に滑っていく。


「ガァアアアアアア――――!!」

「――――まだまだ」


 左切り上げと右切り上げによる大きく深い切り傷から、勢いよく血しぶきが噴き出す。ここまでの出血量ならば、普通の人間は出血多量で死にかけているし、大多数の魔物も致命傷となっている。

 だが、元々再生能力が高く、非常にタフなオーガは別だ。さらに、人間と魔物の融合で生まれた魔人という事を考えれば、これではまだ足りない。オーガや主導権を再び取り戻した粗暴な男が持ち直す前に、ここで勝負をかけると決めて、目にも止まらぬ速さでの連撃を放つ。

 しかし、ここでオーガの思考も動き出す。身体を斜め十字に切り裂かれた痛みに呻きながら、漆黒の炎の密度をさらに上げて防御力を上げ、俺の連撃を無傷で防ごうとする。だが、何度やっても同じだ。どれだけ漆黒の炎の密度を上げようとも、攻勢の魔力を纏わせたロングソードの刃を防ぐ事は出来ない。


(まずは右腕)


 振るわれるロングソードを受け止めようとした右腕を、二の腕の位置で綺麗に切り裂く。


(次は左腕)


 オーガは、さらに炎の密度と魔力を上げる。そして、今度は受け止めではなく受け流しに切り替え、左腕でロングソードの刃を受け流そうとする。だが、受け流す間も与えずに苦もなく、受け流そうとした左腕を二の腕の位置で綺麗に切り裂く。


(次は両脚)


 両腕を連続で切り裂かれたオーガは、ここにきて命の危機をようやく感じたのか、この土壇場になって急に冷静になった様だ。防御も回避も不可能だと判断し、なりふり構わずに距離を取る選択をした。だが、それは致命的なまでに遅すぎる。


「――――逃がすわけないだろう」


 俺がそういった瞬間、オーガは距離を取る事を諦めて、目に強い意志を宿して真っ向から迎え撃つ事を選択する。残った両脚に漆黒の闇と魔力を全集中させ、魔人としての肉体を限界まで強化し、残像すらも残さぬ閃光の如き蹴りを放ってくる。

 しかし、それは俺も同じだ。アモル神やアセナ様たちの身体強化を参考にして改良した、新たな身体強化の魔法を発動して肉体を大幅に強化する。そして、強化された俺の目には、オーガの両脚による連撃がしっかりと目に映っている。


「ゴァアアアアアアアア!!」

「――――――!!」


 迫りくる二連撃は、正確に俺の頭部を狙って放たれている。その閃光の如き連撃に対して、こちらも一閃の二連撃を放って迎え撃つ。そして、俺の二連撃とオーガの二連撃が真っ向からぶつかり合う。


「生まれながらの力を磨く事もせず、ここに至るまでおごりが過ぎたな」


 互いの二連撃がぶつかり合った結果、勝敗はどちらも俺に軍配が上がった。オーガの両脚は、どちらもひざ上を綺麗に切り裂かれており、傷口から血が引き出し地へと零れ落ちていく。

 両腕・両脚を失ったオーガに、最後の止めを刺す為に近づいていく。その時、何とも言えない事が起きた。オーガは、今度こそ完全に自分が死に至ると理解し、その恐怖から完全に戦意喪失そうしつして意識を手放す事で逃げ出した。そして強制的に意識を戻された粗暴な男が、オーガと同じく完全に戦意を喪失し、恐怖を浮かべた顔で俺を見る。


「…………剣鬼」

「何事も、道を極めるというのは修羅の道。鬼になるくらいで極められるものでもない。それに鬼が出たくらいで驚いてたら、命が幾つあっても足りない。お前も相棒の男も、その辺舐め過ぎなんだよ」


 俺は恐怖に歪んだ顔をしている粗暴の男の首を、ロングソードをサッと横一線に振り抜き、確実に殺す為に切り裂いた。切り裂かれた粗暴な男の首に、スーッと血の線が浮かび上がる。そして、ゆっくりと粗暴な男の首がズレ落ちていき、最後に胴体から別れて地面にボトリと落ちた。

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