第318話
俺を見下す様に嗤うオーガに対して、動じる事なく冷静なまま、ロングソードの刃に攻勢の魔力を纏わせる。先程の攻防で、粗暴な男を大きく深く切り裂いた魔力に対しても、オーガは余裕を崩すことなく見下したままだ。
(粗暴な男が切られた時には、まだ意識が復活していなかったのか?それとも自分ならば大丈夫だという、絶対的な自信からくる見下しなのか、どっちなんだろうな)
まあどちらにしても、オーガが俺という敵を舐めているのは分かった。それならそれで、俺という敵を舐めたまま死んでいけばいい。戦場では、傲慢してる奴や油断している奴から死んでいく。それに気付く前にさっさと殺せるのならば、それに越したことはないし、俺にとってはありがたいし非常に楽だからな。
(オーガの野生の直感も脅威といえば脅威だが、対応出来ないほどのレベルではない。人間の知能が合わさっているとはいえ、動きや考え方の基本はオーガのまま。気を付けるのは漆黒の炎と爆裂魔法だな)
粗暴な男からオーガに身体の主導権が変わっても、背中に背負う漆黒の炎と、両腕と両脚に纏わせている漆黒の炎はそのまま残っている。漆黒の炎を切り裂く事が出来るのは、粗暴な男が見せたロングソードの刃となったものを切り裂いた事から、実際に可能であるという事は分かっている。後は、その身体の再生が追い付かない、再生する事が不可能な傷を付けるだけだ。
「それじゃあ、――――いくぞ」
「――――ガァ!!」
両者同時に相手に向かって加速し、真正面から技と力をぶつけ合う。オーガは徐々に漆黒の炎の力を理解していっている様で、ぶつけ合う事に威力や使い方が変化している。だがやはり脳筋なオーガなので、人間の様な器用な使い方はしないのが救いだ。その代わりに、脳筋らしく力に極振りした使い方をしてくる。
「グラァ!!」
オーガは、右手に変化させた漆黒の炎の棍棒を持って振り上げる。腕の筋肉をパンプアップの様に大きくさせて、荒々しくも真っ直ぐ綺麗に振り下ろしてくる。その一撃は空気を切り裂き、漆黒の炎で空気を焼き焦がしながら、一直線に俺の頭部に向かって迫りくる。
その振り下ろしに対して、俺は抜刀の構えをとって迎え撃つ。深呼吸を一度繰り返し、迫りくる漆黒の棍棒に向けて、目にも止まらぬ速さの居合を放つ。居合による圧倒的な切れ味の一振りと、圧倒的な暴力と熱による一撃が、真正面からぶつかり合ってせめぎ合う。
「――――オラァ!!」
「――――グガァ!!」
互いに気合の咆哮を上げ、互いの一撃にさらに魔力を込めていく。魔力同士が激しく反発し合い、周囲にバチバチと放電が激しく迸る。
オーガがさらに腕に力を込め、腕の筋肉をさらにパンプアップさせる。ほんの僅かに均衡が崩れ、ほんの僅かに棍棒にロングソードが押し込まれる。そこを好機だと直感したオーガは、魔力による身体強化を重ね掛けして、優勢に変える為に一気に勝負を決めようとした。
「ガァ――――」
「――甘い」
魔力による瞬間的な身体強化による緩急と、ロングソードに纏わせている攻勢の魔力をさらに強化して切断力を向上させ、オーガが勝負を決めようと力を込めるその瞬間、一瞬を先んじてロングソードの刃が棍棒を切り裂いた。
そこで動きを止める事なく、更なる追撃を息つく間もなく仕掛ける。両者の間にある距離はほぼなく、オーガも勝負を決めると力を入れた瞬間に棍棒を切られた事で、何が起こっているといった様子で思考が停止している。
振り抜いた状態のロングソードの柄から、握っていた右手をパッと開いて手放す。その手放した右手で、空中に浮かんでいるロングソードの柄を、一瞬で逆手の状態に持ち直す。そして息つく間もなくロングソードを振るい、左脇腹から右肩に向けての右切り上げの一振りを放ち、硬さを誇るオーガの肉体を大きく深く切り裂いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます