第307話

 動いたのは両者同時。右拳による漆黒の一撃と、ロングソードの目映まばゆい一閃が、真正面からぶつかり合う。漆黒の魔力とロングソードに纏わせた魔力、その二つの魔力の衝突による放電が周囲にほとばしる。先程は力負けして吹き飛ばされたが、今回は完全に力が拮抗きっこうし、最後には両者の魔力が反発して拳とロングソードが後ろに弾かれる。


「――――ハッ!!」

「――――オラァ!!」


 だが、弾かれた程度では互いの動きは止まらない。弾かれた際の運動エネルギーを利用して、身体を回転させて速度と威力を上乗せした状態で、もう一度拳を放ち剣撃を振るう。

 再び漆黒の一撃と目映い一閃がぶつかり合う。しかし、今回は一撃だけでは終わらない。俺も粗暴な男もその場から動くことなく、互いが互いの命を刈り取る為に、近接戦闘インファイトで息つく間もない高速の連撃を放つ。目にも止まらぬ速さで拳と剣撃が何度もぶつかり合い、濃密な魔力同士の衝突による強大な放電が何度も周囲に迸り、衝撃波によって周囲の地面が大きく割れていき、周囲の木々が荒々しく揺れてきしみという悲鳴を上げる。


「――――ラァ!!」

「――――!!」


 目にも止まらぬ速さで、連撃の最後の一撃を放つ。互いの得物に濃密な魔力を纏わせて放つ、基礎や基本を突き詰め続けた事で、一撃必殺の領域にまで昇華された殺しのわざ

 業にまで至った一撃必殺の拳と剣撃は、直接ぶつかる事はなかった。纏わせた濃密な魔力同士が先にぶつかり合い、今までにない強烈で強大な魔力同士の反発が起き、俺と粗暴な男はそれぞれ地面を脚で削りながら後方へと下がらされる。


「……これじゃあらちかねぇな。このままお前を甚振って楽しむのもいいんだが、今日は俺にとっても特別な日だからな。さっさとお前を殺す為にも、出し惜しみはなしだ」


 粗暴な男は色々と好き勝手言ったと思ったら、膨大で濃密な暗き闇の魔力を身体から溢れさせていく。溢れ出た暗き闇の魔力は、天高く空へと向かって伸びていく。

 だがある地点でピタリと止まり、その形が鬼の顔の様になったかと思ったら、鬼の顔の様となった魔力が一気に粗暴な男へと急降下していく。そして、鬼の顔の様な形となった魔力が、粗暴な男の全身を飲み込み姿を隠した。

 粗暴な男を飲み込んだ暗き闇の魔力は、より禍々しく、より深く肌を刺す様な冷たい魔力へと変化していく。変化した暗き闇の魔力が、粗暴な男を中心にして竜巻の様にうずを巻く。

 その竜巻の様な漆黒の渦は、粗暴な男へと向かってさらに収束していき、渦から漆黒の球体へとその形を変えた。そして徐々に球体へと罅が入っていき、球体全体へと広がりきった時、漆黒の球体がバラバラと砕けて静かに散り落ちていく。


「はははははは!!やはり、我らが偉大なる主様は素晴らしい!!これこそ、闇に生きる真の強者としての圧倒的な力!!人間という存在を超越した、偉大なる主様に祝福された魔人という新たな種だ!!」


 漆黒の球体が砕けた場所に立っていたのは、粗暴な男であってそうではなかった。  

 声は確かに粗暴な男の声なのだが、外見や魔力が大きく変化・変質していた。人のはだ色から灰色の肌に変わり、身体の大きさも一回り以上大きくなって三メートル以上となり、額から二本の角が生えた鬼の顔になっている。魔力の方も、人間という存在が有する魔力というよりも、魔物たちが有する魔力の方に酷似している。

 高らかに笑い声をあげて、偉大なる主と呼ぶ暗き闇の力に賛辞を贈っている粗暴な男。そんな粗暴な男が変化したその姿は、魔物の中でも上位に位置する肉体の頑強がんきょうさと、人間の何倍も優れた身体能力を有している、凶暴で残忍な魔物であるオーガとそっくりであった。

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