第306話

 教会内に入った俺たちだったが、奥へと進むのに少しだけ時間がかかっている。その理由としては、暗き闇側の魔法使いたちが次から次へと襲い掛かってきて、後顧こうこうれいを断つためにその全てを倒しているからだ。

 ここで生き残りを出してしまうと、また時間をかけて何かしらを画策かくさくし、後の世代にまた騒ぎを引き起こすのは間違いない。だからこそ、向こうから襲いにきてくれているのを利用して、一人残らず命の灯を消しておく。


「徐々にではあるが、一人一人の力量が上ってきておるの」

「そうじゃな。しかし、大した問題ではない。こやつらは慢心が過ぎる」

「今まで格下ばかりを相手にしてきたんじゃろうな。経験が豊富であっても、危機感が薄く反応も鈍い」

「この程度の腕ならば、どれだけ束になって襲ってきたとしても、大した障害にはなりませんね」


 ジャック爺やローザさん、カトリーヌが倒してきた魔法使いたちを酷評する。俺もイザベラたちも、それについて異論を言うつもりも、訂正するつもりも一切ない。これが暗き闇が集めた精鋭なのかと思う程に、暗き闇側の魔法使いたちの力量、腕のびつきが酷過ぎたからだ。


「こんな腕が錆びついてる連中を倒したくらいで、随分といい気になってんな」

「そうですね。我々にとって、あの者たちは雑用係ですから」


 俺たちの前方から、聞き覚えのある二人の男の声が聞こえてきた。それと同時に、禍々しく肌をチクチクと刺してくる冷たい魔力、暗き闇の魔力がこちらに向かって放たれる。

 教会の廊下の奥、暗闇から姿を見せたのは、魔法競技大会で乱入してきた粗暴な男と理知的な男だった。なんと驚くべき事に、俺が切断した粗暴な男の左右の腕や切り裂いた胴体、ジャック爺が消し炭にした理知的な男の左腕と左脚、それから大火傷していた胴体と右半身が治ってしまっている。しかし、完全に癒えている訳ではなく、切り裂かれた痕や火傷などが身体に残っている。


「老いぼれとガキ、お前らを見るとやっぱり身体がうずく」

「早くお前たちを屍に変えろとな」


 なんか二人して中二病的な事を言っている。目も若干血走ってるし、怒りなのか何なのか身体を震わせているしで、もの凄く情緒じょうちょ不安定な人に見える。


(しかし、あれだけの傷や火傷を再生と言っていい程に癒してしまうか。魔法使いたちの息の音を止めた後、身体を消し炭になるまで焼いてきて正解だったな)


 魔法使いたちの死体をその場に残してきていたら、暗き闇の力によって本当に生き返させらていた可能性が高い。生き返させられる事はなくとも、強力なアンデッドなどに強化されて、戦線に復帰していた可能性すらあった。結果的にとはいえ、俺たちの判断は正しかった様だ。


「お前ら、手を出すなよ!!このクソガキを殺すのは俺だ!!」

「賢者を殺すのは私だ!!横槍は止めてもらおう!!」

「さあ、互いに一対一サシで殺し合いを楽しむとしようぜ!!」


 粗暴な男はそう言うと、一気に加速してその場から掻き消えて、一瞬で俺の間合いに入り込んできた。そして、漆黒のガントレットを纏った左拳で、俺の顔面を狙ってきたフックを放ってきた。

 俺はそれに対して、目にも止まらぬ速さでロングソードを左薙ぎで振るい、迫り来る左拳に刃をぶつける。確実に左拳を切り裂くつもりでいったのだが、粗暴な男の拳の威力は予想以上であり、威力を相殺するどころか一気に押し込まれてしまい、そのまま身体が浮いて吹き飛ばされる。そのまま教会の廊下の壁や窓をぶち壊しながら、綺麗に整えられている庭へと飛ばされた。空中で身体のバランスをとって地面に上手く着地し、直ぐに周囲の様子や粗暴な男の位置を確認する。


「ふむ……」

「私も以前とは違いますよ。こうして貴方と魔法で競り勝てる程に、魔法使いとして強くなりました」


 上空には俺と同じく吹き飛ばされたのか、ジャック爺が少し驚いた様子で浮いている。そして理知的な男は、相変わらずプライド高く自慢げに力を誇っている。どうやら、粗暴な男や理知的な男の言葉通り、本当に以前戦った時とは違うらしい。

 魔力感知でイザベラたちの安否を探ると、イザベラたちの周囲に結構な数の魔力を感知した。その動きから、イザベラたちの方にも新手の魔法使いたちが襲撃を仕掛けているのが分かる。


「ウォルター、こっちは大丈夫よ!!」

「ウォルターは目の前の相手に集中して!!」


 イザベラとクララがそう言い、カトリーヌがアイコンタクトで大丈夫だと頷く。高位冒険者であり、一流の魔女であるカトリーヌが大丈夫だというのなら、ありがたく粗暴な男との戦いに集中させてもらおう。


「ははは、死ぬ準備は出来たか?クソガキ!!」

「あいにくだが、前回と違うのはお前らだけじゃない。今度こそ、――――お前を確実に切る殺す

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