第305話

 先手を取ったのは、暗き闇側の魔法使いたち。魔法使いたちは暗き闇から授けられた力、漆黒の魔力を使用して魔法を発動する。しかし、魔法使いたちが仕掛けてきた攻撃は、威力が高くて動きが速いものの、非常に単調で分かりやすい攻撃であった。


「チッ…………ねずみの様にちょこまかと!!」

「我々にあまり手間をかけさせるな!!」

「炎に焼かれて死ぬがいい!!」


 最初の魔法による一撃で片を付けるつもりだった魔法使いたちは、俺たちが易々と魔法を避けた事に腹を立てて、好き勝手に色々と言っている。そんな魔法使いたちに対して、何の反応も示すことなく腰に差しているロングソードを抜き放ち、音を立てる事なく一瞬で距離を詰めていく。


「ふん!!ロクな魔法も使えん半端者の剣士か」

「お前如き、魔力障壁だけで十分対応可能だ」


 俺の接近に気付いた魔法使いが、自信満々に魔力障壁を展開して、ロングソードの一振りを防ごうとする。障壁を構成する魔力は濃密で、魔力制御という点でも素晴らしいといえる。しかしこの程度の魔力障壁ならば、魔境に生息する魔物たちが片手間に展開してくるレベルの障壁であり、俺にとってはそこまで厄介でも脅威でもない。


「――――フッ!!」

「な!?」

「そんな……ゴフッ……バカな!?」

「ゴホッ!!我らは…………あの御方に選ばれた……存在であるはず、なのに」


 一瞬の攻防の後、魔法使いたちは驚愕の表情を浮かべながら、身体から鮮血を噴き出し地に倒れ伏していく。相変わらずこういった連中は、死ぬ時に同じ様な事を言うな。

 魔法使いたちが地面に血溜まりを作り出す光景を見て、仲間の魔法使いたちは驚きと動揺を示す。まあ、それも仕方ないか。自分たちが最強だと信じている暗き闇の魔力、その魔力で展開した無敵の障壁を、魔力で強化する事もないで切り裂いたのだから。


(強度はそれなり、しかし密度が圧倒的に足りない。障壁のレベルとしては、魔境の中層辺りに生息している魔物と同程度だな)


 この程度の障壁ならば、どれだけ展開されたとしても問題にはならない。というよりも、この程度の障壁を切り裂く事すら出来ないと、魔境における戦闘で生き残れない。寧ろ、最近鍛錬で戦ったアモル神やアセナ様が展開する障壁の方が、同じ魔力量でも硬く切りづらかったくらいだ。


「ウォルター、どうじゃ?」

「問題なし。全員かどうかは分からないけど、中層の魔物程度だね」

「なる程。それなら特に問題ないの」

「な、なんだと!!」

「その二人は、我らの中でも最弱!!我らをその者らと同じと思うな!!」

「――――同じじゃよ」


 ジャック爺の返事と共に、周囲の温度が急速に下がっていく。それは一瞬の出来事であり、魔法使いたちにその一瞬を認識する事が出来なかった。それもそのはずで、ジャック爺を囲んでいた魔法使いたちは全身を氷漬けにされており、その命すらも凍らされていたからだ。

 この恐るべき光景を見て、魔法使いたちは直ぐにジャック爺との実力差に気付き、恐怖の感情にまれて身体の動きが鈍り固まる。そこを見逃す程、ローザさんやカトリーヌ、イザベラたちは甘くない。ローザさんは幾つもの炎の剣を作り出して放ち、カトリーヌはショートソードの刃に風の属性魔力を纏わせて切り裂き、イザベラたちは各属性の魔力剣を生み出して切り裂いていった。

 俺もロングソードを振るい、魔法使いたちを切り裂いていく。一人、また一人と地に倒れ伏していき、地面に血溜まりを作り出していった。そして、最後の一人となった魔法使いとの距離を詰め、目にも止まらぬ速さでロングソードを袈裟切りに振り抜く。ロングソードの刃は魔法使いの身体を深く切り裂き、傷口から真っ赤な鮮血が噴き出す。


「……嫌だ、死にた――――」

「――――!!」


 死に際に、自分勝手な戯言を言おうとする魔法使い。しかし、それを許す事はない。これまで散々自分勝手に力を揮って人々を傷つけてきたのに、死ぬという事を自覚した途端に死にたくないなど、到底許される事ではない。だから俺は、魔法使いが死にたくはないと懇願する前に、その首をロングソードで切り裂いて落とした。


「さて、先に進もうかの」

「うむ」

「そうですね」

『はい』

「そうだね」


 魔法使いたちの身体をジャック爺とローザさんが魔法で全て燃やし、アンデッドにならない様に処理をした後、次なる敵が待ち受けているであろう教会の中へと、俺たちは気負う事も緊張する事もなく足を進めていく。

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