第302話
パチリと両目を開き、休めていた身体を起こして意識をハッキリさせ、心身を戦闘態勢へと切り替える。
静まり返っていた王都、アモル教総本山の教会内で、僅かな魔力の揺らぎを感じた。しかもその魔力はただの魔力ではなく、禍々しく肌をチクチクと刺してくる冷たい魔力、あの暗き闇から感じた魔力そのものであった。
この魔力を総本山の教会内から感じたという事は、暗き闇側が遂に動き出したという事だ。改めて魔力感知で教会内を詳細に探ってみると、感じられる魔力の数は十以上もあり、複数人で行動しているのが分かる。そして、魔力を感知出来た十以上の魔力の中で、反応が一際大きい魔力の持ち主が二・三人程いる。
(この二・三人は、暗き闇に付き従っている者たちの中でも、一つ二つ頭抜けているな)
頭抜けている魔力量だけでなく、魔力そのものが非常に安定してして、滑らかで洗練されているのも脅威だ。ここまで滑らかで洗練されているという事は、優れた魔力操作・制御の腕を持っており、魔法使いとしての戦闘経験も豊富なのは間違いないだろう。
「動いたの」
「戦の時間じゃ」
「中々に腕が立つ連中みたいね」
「ええ、その様です」
屋上で静かに集中していると、同じく魔力の揺らぎを感知したジャック爺・ローザさん・カトリーヌの三人が、屋上にその姿を見せた。三人とも全身から魔力と闘志を
「ウォルター!!」
「この禍々しい魔力って!!」
「賢者様にローザ様……」
「……それにカトリーヌさんも」
「という事はやはり?」
「うむ。奴らが動き出した様じゃ。皆、切り替えよ」
『はい』
ジャック爺にローザさんから教えを受けているイザベラたちは、師である二人の言葉に直ぐ様意識を切り替える。
俺と出会う前のイザベラたちならば、この僅かな魔力の揺らぎは感知出来なっただろう。だが俺たちに僅かに遅れるとはいえ、正確に暗き闇側の魔力を感知し、直ぐに意識を戦闘体勢に切り替える事が出来る様になっている。イザベラたちも日々成長し、一流の魔法使いへの道をしっかりと歩んでいるのが分かる。このまま成長し続ければ、ジャック爺とローザさんの後を立派に継ぐ、一流の魔女へと至る事が出来るだろう。
「奴らの動きに注意しつつ、迅速に戦闘準備を行う」
「急いでいるからといって、準備に手を抜いてはいかんぞ」
「しっかりと確認しておかないと、いざという時に致命的な事になりかねないからね」
『了解です』
ジャック爺たちの言葉に従い、イザベラたちは戦闘準備をする為にそれぞれの部屋へと戻っていく。
「ローザさんは、戦闘用の服装や杖などは持ち歩いているんですか?」
「ああ、その辺は大丈夫だよ。何かあってもいい様に、常日頃から備えているからね」
「それなら安心です」
「それじゃあ、儂らも準備をするとしよう。ウォルターも、奴らの動きが気になるじゃろうが、直ぐに戦闘準備に取り掛かるんじゃぞ」
「うん、分かってるよ」
ここから先は時間との勝負でもある。奴らが何か動く前に、こちらでその動きを止める。その為には、迅速に戦闘準備を整えて、この屋敷から教会へと向かう必要がある。ジャック爺たちに続いて屋上から自室へと戻り、騎士服やロングソードに不備がないか確認していきながら、暗き闇側との戦闘準備を迅速に進めていく。
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