第301話

 皆で食卓を囲んだ楽しい食事会が終わり、日が水平線へと沈んでいく時刻となった。王都の街灯に魔力による明かりがともり始め、アイオリス王国全土が暗闇に包まれていく。街灯の明かりがあったとしても、その暗闇は暗く濃いものである事に変わりない。人々は暗闇を恐れ、暖かな光に溢れていて心から安心する事が出来る、自分たちの居場所である家で過ごしている。

 そんな人が本能的に恐れる暗闇の中を、特に気にする様子もなく歩いている者たちがいる。その暗闇を恐れぬ者たちは、全員が黒いフードで顔を隠し、黒い宗教服を身に纏っている。そして、禍々しく肌をチクチクと刺してくる冷たい魔力を、全身から強烈に放っている。


「準備は万全か?」


 暗闇を恐れぬ者たちの中で、最も濃密な魔力を放ち、最も禍々しさを感じさせる男が他の者たちに問いかける。その問いかけに対して、一人の男が動いてその男の傍に近寄り、その口を開いて問いかけに答える。


「一切抜かりなく終わらせています。後は、しかるべき時に発動させるだけです」

「そうか。奴らの方はどうだ?」

「愚かな少女と男、その二人に従っている者たちの方も、こちらの思惑通りに動きました。処分の方は、あの御方直々に行うとの事です」

「あの御方がそう言うのならば、捨て駒たちの事は捨ておいていい。まあ、あれら愚か者たちに何かが出来るとは思っていないがな」


 黒きフードに黒き宗教服の者たちのリーダである男は、侮蔑を込めた言葉を愚か者たちに向けて放つ。その侮蔑の言葉を聞いた傍にいる男や、リーダーの後ろで歩く者たちは、愚か者たちに対して嘲笑を浮かべる。

 この者たちにとって、ローラ・ベルナールとアモル教教皇は目的の為の捨て駒であり、分不相応な願いをもつ愚か者でしかない。自分たちがとうと御方おかたによって選ばれたという自尊心が強く、選ばれる事もなく利用されるだけの駒でしかない者、ローラ・ベルナールや教皇を見下すのは当然だと考えている。

 そんな愚か者でも使い道があるため、今も五体満足で生かし続けている。尊き御方も、目的を達成するまでは表向きは友好的に接し、気分良く事にあたってもらえとの指示が出ている。だが尊き御方のめいでなければ、即座に自分たちでその命を摘み取っている程、捨て駒たちの事を心底嫌っている。


「問題は、魔法競技大会に送り込んだ二人を叩きのめしたという、老魔法使いと剣士の青年か」

「賢者ジャック・デュバルと、ベイルトン辺境伯家の三男、ウォルター・ベイルトン。ベイルトン辺境伯領の近くには、あの御方も警戒する魔境と呼ばれる地があります。その魔境で心身を鍛えたのならば、あの二人を手玉に取るくらいは造作ぞうさもないでしょう」

「あの二人も、我々の中では下から数えた方が早い奴らだからな。序列が上の者たちや私が直々に相手をすれば、特に問題となる事も障害となる事もなく、容易たやすく排除する事は可能だろう」

「剣士の青年の方はどうされますか?あの御方が少しばかり関心を寄せていたようですが……」

「そちらは既に確認済みだ。あの御方にとって剣士の青年は、ボロボロになるまで使える遊び相手の玩具おもちゃという意味でのお気に入りであって、こちらに引き入れるという意味の選ばれし者ではないとの事だ」

「なる程。では……」

「ああ。あの御方の楽しみを奪ってしまう事になるかもしれないが、もし剣士の青年と相対した時には、殺してしまっても特に問題はない。我々の最優先目的はただ一つ。封印されているあの御方を現世へと解き放ち、この世界をあの御方におささげする。……それを邪魔する者は、――――例え誰であっても排除する」

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