第303話

 騎士服を身に纏い、腰にロングソードを差した俺は、屋敷の玄関へ足を進める。魔境に生息する魔物たちとの戦いや、魔法競技大会での粗暴な男との戦いを思い出す。

 それに比べて、ナタリーの為にとアルベルト殿下たちと行った戦闘は、正直に言って戦闘とも呼べないようなものだった。技と技のぶつかり合いもなく、互いの命が削られる事もない、本物の戦場を知る者と知らない者の戦いだった。アルベルト殿下たちを殺さない様にと、気絶する程度に手加減していたからな。

 しかし今回の戦争は、相手が相手だけに一切の手加減は必要ない。魔境に生息する魔物相手に戦うつもりでいく。


「全員そろったようじゃな」

「ウォルターもイザベラたちも、皆よい魔力に覇気を放っておるの」


 ジャック爺とローザさんは、幾つもの魔法がかけられている服を身に纏い、その上に同じく魔法がかけられている灰色のローブを羽織っている。そして、それぞれが右手に最高品質の杖を持っている。ジャック爺もローザさんも、物語に出てくる老魔法使い・魔女そのものに見える。

 ローザさんの横に立っているカトリーヌは、魔女というよりかは冒険家といった感じの、スタイリッシュでカッコいい服装を身に纏っている。腰にはショートソードを差しており、杖の代わりとなる魔法発動体である、手の甲の位置に黒色の魔法陣が描かれている、真っ白な手袋を両手にはめている。

 そしてイザベラたちは、所謂ドレスアーマーと呼ばれるものを身に纏っている。といっても、完全な鎧といった感じではなく、急所の部分にだけ金属が使われているタイプの、防御力よりも機動性を重視したドレスアーマーだ。

 このドレスアーマーは、そんじょそこらのドレスアーマーとは比較にならない特別製。ドレスアーマーに使われている生地や金属は、物理・魔法に対して非常に防御力が高いものが使われている。なので、威力が低かったり魔力制御・操作が未熟な魔法は、ドレスアーマーを貫いてイザベラたちに傷を負わせることはない。そしてイザベラたちの両手には、カトリーヌと同じく黒色の魔法陣が描かれている、真っ白な手袋がはめられている。

 イザベラたちのドレスアーマーについては、ジャック爺とローザさん、そしてカトリーヌが協力して作り出したものだ。手袋に関しては、カトリーヌが独力で生み出した杖であり魔道具という、魔法王国であるこの国でも珍しい特別な一品となる。そんな特別な一品に関する知識を、イザベラたちの為にと惜しみなくジャック爺とローザさんに教え、更なる改良を加え続けて大幅に強化された傑作けっさくだ。


「では、奴らの暗躍を止める為に、アモル教総本山へと向かうとするかの」

「改めて、皆気を引き締める様に」

『はい!!』

「了解しました」

「了解です」

「私たちは、何があってもいい様に備えておきます」

「皆が無事で帰ってくるのを、私たちはこの屋敷で待っているわ。状況を適切に判断して、自分の命を大事にして素直に退きなさい」

「例え儂とローザが死のうとも、ウォルターたち若い者は必ずこの屋敷に返す」

「まあ、私らも早々にくたばる気はないけどね。……それじゃあ、行ってくるよ」

『行ってきます』

「「行ってらっしゃい」」

『行ってらっしゃいませ』


 カノッサ公爵夫妻は笑顔でそう言い、セバスさんたち使用人は一斉に頭を下げる。俺たちはもしもの時の事を考え、最後となるかもしれない皆の顔をしっかりと目に焼き付けてから、アモル教総本山の教会に向けて移動を始めた。

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