第279話

『教皇は、何時暗き闇と接触したんでしょうか?』

『恐らくですが、教会内にある教皇を含めた上の地位にいる者たちが使う場所、もしくは教皇の執務室の様な個人的に使っている部屋でしょう』

『アモル様は、何か異変を感じた事は?』

『恥ずかしながら、今まで一度も。もしかしたらですが、ここ数日の忙しくしている時を見計らい、暗き闇が仕掛けてきたとしか……』

『なる程。アモル様も忙しそうにしていましたからね。狙い目があるとすればそこでしょうね。そして、暗き闇は教皇に接触した。アモル教の教皇が、暗き闇に協力する理由として考えられるのは……』

『アモル教の教皇の一族として、小さき頃から莫大な財と恵まれた環境があり、教皇となって強大な権力を有している。そんな一国の王族の様な立場の人間が、さらに何かを望むのかといえば…………』

『遥か昔から存在する、どんな世界であろうとも権力者たちが求めるものであり、欲深き人間の最も業の深い望み。――――永遠の命』

『……間違いないでしょう。教皇は永遠の命を求め、暗き闇と取引をする事を決断した。そして自身の願いを叶える為に、自分の使える力の全てを使って積極的に行動し、取引相手である暗き闇の力となっている』


 永遠の命・若さ・美貌などなどは、人という存在の宿命である寿命や老いから逃れる為に、時の権力者たちや研究者たちが追い求めてきたもの。だが、科学技術や学問の進んでいた前世の地球であっても、人間の老化現象や細胞分裂を止める事に成功したというのは、俺が生きていた間に聞いた事は一度もなかった。

 剣と魔法のファンタジー世界、乙女ゲームの世界であろうこの世界において、魔法技術がどこまで進んでいるのか分からない。歴史書から絵本など様々な種類の本を読んできたが、人間が不老や不死という存在に至ったという記述きじゅつは、ただの一度も目にする事はなかった。つまり、別ベクトルで進化してきた世界であっても、人間が不老不死という化物になる事は出来ないという事だ。


『どうしますか?アモル教の教皇が暗き闇と通じていると情報は、転生者であるイザベラとクララ以外には衝撃が大きすぎると思うんですが……』

『そうですね。この事はイザベラやクララにのみ先に伝え、一人一人順番に伝えるか、二人一組で伝えていく事にしましょう。伝えた人たちの様子もしっかりと見つつ、伝えた者の中に精神的に問題が出そうならば、時間をおいてから伝える方向で切り替えましょう』

『分かりました。イザベラとクララの次に伝えるとしたら、マルグリットとナタリーか、カノッサ公爵夫妻と考えていますが、アモル様はどう考えていますか?』

『マルグリットとナタリーにしましょう。ローゼンとアンナでもいいのですが、やはりウォルターたちよりも長く生きている分、アモル教や教皇に対する敬意が強いですから』

『了解です』


 カノッサ公爵夫妻に伝える時もそうだが、その上の世代であるジャック爺やローザさんたちに伝える時も、色々と気を付けながら伝えないといけないな。

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