第258話

 舞踏会が始まって暫くの時間が経ったが、ローラ嬢と女豹たちの争いは、今の所視線で威嚇いかくし合うだけにとどまっている。この平穏な時間が何時まで続くのか分からないので、友人の皆には積極的にダンスホールに出てもらい、楽しい一時を過ごしてもらっている。

 ローラ嬢とアルベルト殿下は、何故かは知らないがまだダンスホールには出てこない。何か考えがあるのか分からないが、他の生徒たちのダンスを静観せいかんし、側近たちを含めてその場から動く事はない。女豹たちは女豹たちで、現状では様子見に徹して情報を集めているのか、女豹たち側からアクションを仕掛ける事はない様だ。


「このチーズのケーキ、くちどけが滑らかでとても美味しいですよ」

「こっちのチョコのケーキは、チョコの濃厚な味が口一杯に広がるわ」

「フルーツケーキに使われているフルーツは、どれも瑞々みずみずしくて、もの凄く甘くて美味しいです」

「バターを使ったこのケーキも、とてもしっとりとしていて、バターの香りが素晴らしいです」

「皆ケーキも美味しいけど、こっちのクッキーやサンドイッチも、ケーキに負けないくらいに美味しいよ」


 俺たちは友人たちのダンスを見守りながら、舞踏会の為にと用意された、一流の料理人たちが作ったお菓子やスイーツ、それからサンドイッチなどの軽食をつまんでいる。ダンス前にお腹が一杯にならない様に、皆でお菓子やスイーツなどを共有して、一口ずつ順番に口に入れて楽しんでいる。この場に並べられているお菓子やスイーツの数々、サンドイッチのなどの軽食の数々は、一流の料理人たちの手で作られている事もあり、味もさることながら見た目もとても綺麗だ。お皿に乗せられている一つ一つの料理は、とても美しい芸術品の様に見えるくらいだ。

 そんな風に、心からお菓子やスイーツなどを楽しむ俺たちの姿を見て、パートナーとダンスを楽しみ終わった友人たちも、用意された料理や飲み物に手を付け始めた。男性陣はサンドイッチなどの軽食の方をメインにし、女性陣はイザベラたちと同じ様に、お菓子やスイーツをメインにしてそれぞれ口にしていく。男性陣も女性陣も、口にした料理たちの美味しさに頬を緩め、パートナーと良い雰囲気になって、笑みを浮かべて楽しそうに談笑を始める。


「同じ派閥の友人という関係から、今回の舞踏会で先に進む子たちがいそうだわ」

「見た感じ、三・四人はといった感じよね」

「このまま他の皆さんも、同じ様に先の関係へと進んでくれると嬉しいですね」

「ええ、本当にそう思います」

「友人たちには、皆幸せになってほしいな」


 良い雰囲気になっている男女のパートナーの中には、貴族家の子息・子女と、平民の男子・女子生徒の組み合わせもいる。他の派閥はどうか知らないが、イザベラの派閥に関しては身分差はない。派閥というものを明確に作り始めた時はあったそうだが、ゆっくりと時間をかけてなくしていったそうだ。その中でイザベラたちがいまだに様付けされるのは、魔法学院内外でこれまでに見せつけた、イザベラたちのカリスマ性によるものだ。


(こんなに美味しい料理や飲み物が用意されてるんだから、他の派閥の人たちも楽しめばいいのに)


 俺がチラリと周囲を確認するが、アルベルト殿下を筆頭にした派閥の者たちと、女豹たち同盟の者たちはそれぞれの場所で集まっており、用意された料理などに手を付ける様子はない。互いに常に敵を監視し続け、二つの派閥の周囲にはピリピリした空気がただよい、余り近づきたくない空間となっている。

 対するイザベラたちの派閥である俺たちがいる場所は、非常に和気藹々わきあいあいとした雰囲気になっており、和やかな空気が流れている。そんな違いに気付いた先生や生徒たちも、さりげなく位置を変え続けて移動し、俺たちのいる場所の近くに避難してきた。俺だけでなくイザベラたちもそれに気付いた様で、さりげなく会話や料理に誘い、自然に見える様に輪の中に誘っていった。

 イザベラたちは中立の生徒たちの愚痴ぐちを聞き、俺は先生たちの愚痴を聞いて、彼ら彼女らのストレスを解消させてあげた。生徒たちも先生たちも、愚痴を粗方あらかた吐き出すとスッキリとしたのか、料理や飲み物に手を付け始める。俺たちは殺伐とした雰囲気を放つ二つの派閥と違い、舞踏会という魔法学院内の交流の機会を、生徒や先生といった立場関係なく楽しんでいた。

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