第257話

 真っ赤に輝く太陽が水平線へと姿を隠し、アイオリス王国全体が暗闇へと包まれ、漆黒の宙に白く輝く月が姿を現す。月が放つ優しい光と、王都中に設置されている光の魔道具によって、完全なる暗闇が訪れる事はない。そんな何時もと変わらぬ一夜のもと、魔法学院が誇る豪華で広大なダンスホールにて、色々な人の想いが交錯こうさくする舞踏会が幕を開けた。


「…………では、今日という日を目一杯楽しんでくれ!!」


 最初の学院長の挨拶が終わると、それを合図として、学院が雇った王音の有名な音楽団が音楽をかなで始める。ダンスホールの中には既にグループが出来ており、流れ始めた音楽に合わせて、思い思いにダンスを楽しみ始めた。今の所は、ローラ嬢とアルベルト殿下たち、女豹たち貴族令嬢同盟の二つの勢力は、ぶつかり合う事無く静かなままだ。ただ、女豹たちからローラ嬢に向けて、常に鋭い視線だけは向けられている。

 ダンスに参加していない人たちは、友人たちと仲良くお喋りをしたり、一流の腕を持つ料理人たちによって作られた、お菓子やスイーツなどを楽しんでいる。その他にも、サンドイッチなどの軽食が机に並べられ、使用人たちが飲み物を銀のトレイに乗せて待機している。

 先生たちもドレスや貴族服を身に纏い、生徒たちを見守りながら各々楽しんでいる。生徒たちの中には、いつもと違う雰囲気の先生たちに、目を奪われている者もいる。特に美男美女の先生たちは、学年問わず生徒たちに注目されている。そんな中で猛者の生徒が現れ、美男美女の先生たちにダンスを申し込み始める。生徒や同僚とダンスを踊るかどうかは、先生たちも各個人で自由に決めていいとの事で、生徒とダンスを踊る先生もいれば、傷つけない様に気を付けながら断る先生もいる。


「先生たちも大変だな」

「前回の舞踏会では、ここまで問題が起きる雰囲気じゃなかったから、先生たちも気軽にダンスを踊ってたわ」

「由緒ある魔法学院と言えども、緩める所は緩めるんだ」

「何度か締め付け過ぎて問題になったみたい」

「ですが、逆に緩めすぎて問題になった事もあったみたいです」

「それらの事を鑑みて、緩める所は緩めて、締める所は締めるという方針になったそうです」

「そうなのか。という事は、舞踏会で生徒たちと一緒になって楽しむのは、魔法学院の方針では緩める所という事になる訳か」


 先生たちも人であるからこそ、こういった先生たちでも楽しめる学院行事であれば、積極的に生徒たちと共に楽しもうという事か。

 だが残念な事に、今回の舞踏会に関しては心から楽しむ事は出来なさそうだな。今もローラ嬢やアルベルト殿下たち、それから女豹たちの動きを監視し続けて、警戒態勢を解く事なく緊張状態を保っている。それらを生徒たちに悟らせない様にしているのは、色々な経験を積みながら生きてきた、人生の先輩たちのせるわざだな。


「さて、何か問題が起きて中止になる前に、皆に踊ってもらって楽しんでもらいましょう」

「そうだね。彼女たちが戦争を始める前に、皆に楽しい思い出を作ってもらおう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る