第256話

 よく晴れた天気の良い日、本日の魔法学院は生徒たちの騒めきで包まれていた。そして、その騒めきは生徒たちだけでなく、魔法学院の先生たちも同様であった。しかし先生たちの騒めきは、生徒たちの様にワクワク感からくる騒めきとは違い、問題が起きたりしないかといったマイナス面での騒めきだ。

 今回の舞踏会は、魔法学院内外で色々な事があった、もしくは現在進行形で起こっている最中での開催となる。先生たちからすれば、問題がまだ残っている状態での開催や、問題児とみなしている者が新たに何か引きこさないかと、楽しみな気持ちよりも不安な気持ちの方が大きいのだろう。


(舞踏会中に何か問題が起きたら、先生たちが対応しなくてはいけないし、責任も先生や学院長に向かうからな。それは避けたいだろうが、今の状態だとローラ嬢や女豹たちが問題を起こす可能性は、非常に高いと言わざるを得ない)


 歴史ある魔法学院に勤める先生たちの中には、爵位が高い貴族家が生家の先生もいるが、公爵家の娘であるローラ嬢には権力では勝てない。それに女豹たちの中には、先生たちと同格の爵位の貴族家の生まれや、それよりも上の爵位の貴族家の生まれがいるので、そちらに対しても権力を用いて強く出る事は出来ない。

 爵位が低い女豹たちも、爵位の高い女豹たちの権力を上手く利用しつつ、先生たちから何かを言っても聞き流しているのが現状だ。そんな状態となっている中で問題が起きた時、先生たちが落ち着く様に声を掛けたとしても、ローラ嬢や女豹たちが言う事を聞くとは思えない。

 さらに問題があるのが、ローラ嬢の婚約者であるアルベルト殿下の存在だ。それに加えて、ローラ嬢に恋心を抱いてしまっている側近たちの存在も、また厄介極まりない。ローラ嬢を守るためにと、アルベルト殿下と側近たちまで加わってしまったら、誰にも収集がつかなくなってしまう。


「彼女たちの争いに、ローラ嬢を守るためにと、アルベルト殿下や側近たちが首を突っ込めば…………」

「大きな火種が追加されて、より火力が増す事は間違いないわね」

「そうなったら着地点もなくなって、陛下か王妃くらいしか、彼女たちの騒動を止められなくなるでしょうね」

「最悪の場合、そうなった時には友人たちを避難させる事を優先させましょう」

「私たちは、彼女たちの避難が完全に終わってから、状況を見つつ同じ様に避難する。そういう流れでいいですよね?」

「それでいいよ。マルグリットやナタリーの言う様に、最悪の場合には先に友人たちを舞踏会から避難させて、その後に俺たちも避難という流れでいこうか」

「分かったわ」

「了解」

「「分かりました」」


 派閥の長とその身内として、俺たちをしたってくれている友人たちの事は、どんな事があっても守って見せる。それが、派閥のトップにいる者の、果たすべき責任であるからだ。

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