第246話

「ウォルター、本当におめでとう。正式に結婚のちぎりを結んだ事で、これで堂々と誰にもはばかれる事なく、イザベラお嬢さんたちと仲良く過ごせるの」

「ジャック。ウォルターたちは、今までも誰に憚る事なく仲良く過ごしておったわ。寧ろ、周囲の者たちに仲が良すぎる事を見せつけておったじゃろ」

「それでも婚約状態のままである事と、正式に婚約式を済ませたのとでは、色々と違う事があるのはローザも分かっておるだろう?」

「まあの。こうして正式に婚約式を済ませれば、くちさがない連中も、迂闊うかつに何かを言う事が出来なくなるからの」

「自分たちの発言によってウォルターたちの事をおとしめる様な事になれば、カノッサ公爵家とベイルトン辺境伯家を同時に敵に回す事になる。余程の馬鹿でなければ、状況をしっかりと把握して、早々に口をつぐむ様になるじゃろう」

「それでも止めぬのならば……」

「そうじゃな、止めぬのならば……」

「フフフフフフ」

「ハハハハハハ」


 ジャック爺とローザさんが、不穏な様子で暗い笑みをこぼす。ジャック爺もローザさんも、魔法使いとしての力も権力も持つ人たちだ。そんな二人が、魔法使いとしての力と権力をフルに使い、敵と戦うという光景を思い浮かべる。そして、あらゆる意味で強大な力を持つ二人が、敵に対して力を揮う場面を想像し、思わず身体がブルッと震えてしまう。


「二人とも、余り大事おおごとにはしないでくださいよ。大事にしたとしても、くらいにしてください」

「分かっておる」

「分かっとるわい」


 二人とも口ではそう言うものの、表情が不満タラタラである事は見て分かる。ジャック爺もローザさんも、敵と認めた相手には一切容赦はしない。敵に対して一切容赦しない二人が本気で力を揮う時、王都の損壊そんかいがほんの少しで済むはずがない。


「儂らはよりも、もっと気になっておる事がある」

「カトリーヌとも婚約式を済ませた今ならば、身内として色々と突っ込んだ話ができるからの」

「そうじゃ、老い先短い儂らにとって、最も大事な話がの」

「最も大事な話?一体何の話なの?」

「そう、それは…………」

「――――‟ひまご”じゃ!!」

「………………ひ、ひ孫?」

「儂もジャックも、ウォルターとカトリーヌの本当の曾祖父母そうそふぼではない。じゃが儂ら二人とも、ウォルターたちの事を本当のひ孫の様に思っておる」

「だからこそ、生きておる間にウォルターたちの間に生まれた赤ん坊を、儂らにとってひ孫の様な存在となる子を、この腕の中に抱いて死にたいんじゃ」

「その子らをこの腕に抱いてからでなくては、儂らは死ぬには死に切れん。ひ孫たちを腕に抱くまでは、どんな手段を使ってでもこの生にしがみつくわい」

「だからウォルター、儂らがボケ老人になってしまう前に頼むぞ」

「………………頑張るよ」


 ジャック爺には幼い頃から世話になっているし、ローザさんにも今回の件で大きく力になってもらっている。ジャック爺は俺のもう一人の祖父であり、ローザさんはカトリーヌのもう一人の祖母の様な存在でもあるので、ジャック爺とローザさんにはぜひ俺たちの子供を抱いてもらいたい。未来に生まれる俺たちの愛しい子らと、曾祖父母ジャック爺とローザさんの家族団欒だんらんの為にも、平穏な未来の邪魔になる暗き闇にはさっさと退場してもらう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る