第245話

「いいですか、イザベラお嬢様方。夫婦生活や子育てに迷う事があったら、必ずめが…………アンナ様女神に相談するのですよ」

『はい』

「アンナ様に相談すれば立ち所に迷いが消え去り、ウォルターさんとの関係は良くなります」

「私たちも、今では夫や使用人たちとの関係が良好ですが、その良好な関係に至るまで色々とありました。アンナ様が親身に接してくれたお蔭で、私たちも夫たちも幸せになりましたし、使用人たちとも本当の家族の様に仲が深まりました」

「息子や娘とも互いに家族として愛し合い、心から信頼しあう様になりました。屋敷の中が明るくなりましたし、会話が増えてにぎやかになりました。本当に、アンナ様には感謝しかありません」


 派閥に属する貴族家の夫人たちが、私のお母様の事についてたたえてくれる。大好きなお母様が褒められる事に、嬉しさと共に誇らしさが胸に溢れてくる。そして、様々な事を厳しくも優しく教えてくれた思い出が、脳裏に浮かんでは消えていく。

 昔からお母様は、愛しい夫であるお父様とだけでなく、王都の屋敷で働く使用人たちや、カノッサ公爵領に住んでいる領民たちとも仲が良かった。小さい頃の私は前世の記憶の影響もあって、誰とでも仲の良いお母様というのは、転生したこの世界においても普通だと思っていた。まあ、成長するにつれてこの世界の様々な事を知っていき、それが普通ではないと知ったのだけれどね。

 お兄様たちと同じ様に、分け隔てなく愛情を注いでくれたし、何不自由のない教育を受けさせてくれた。カノッサ公爵家という貴族家をお父様と共に支え、使用人や領民たちと一緒に盛り立ててきたお母様を、私は心から誇りに思っている。前世で何年生きていたとか関係なく、今世の私の目標はお母様だった。


(それに、ウォルターのお義母様もクララたちのお母様も、私のお母様に引けを取らない素敵な女性だったわ)


 私もクララたちも、そんな素敵な女性であるお母様たちから学び、ウォルターの隣に立つに相応しい女性になるの。ウォルターやクララたちと手を取り合って共に家庭を守っていき、生まれてくる子や孫と共に暖かい家族を作り、今度こそ自分の人生を愛しい者たちと過ごして天寿てんじゅまでまっとうする。

 その為の第一歩である婚約式を、今日この良き日に行えた事に、愛を司る女神たるアモル様に心からの感謝を伝える。懐に仕舞ってある魔力が宿った帯が、その帯に宿っているアモル様の分霊が、私の想いに反応するかの様にかすかに震える。アモル様が私の想いに反応してくれた事が嬉しくて、自然と微笑みを浮かべてしまう。

 アモル様が私を応援してくれているというだけで、私にとっては百人力よ。暗き闇だろうが、ローラ・ベルナールだろうが、アルベルト・アイオリスだろうが、私たちの幸せな人生の邪魔はさせない。誰であろうとも邪魔をするのならば、正面から叩き潰してでも排除するわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る