第241話

 イヴァン・ベルナールとスザンヌ・ベルナールの子である、ローラ・ベルナール嬢が正式に聖女ジャンヌの後継者であると認定されてから行った事は、マルグリットに行った事と全く変わらなかった。表では、今まで通りに猫をかぶってアルベルト殿下たちにびを売り、裏では気に入らない令嬢に嫌がらせをしていた。

 今までは、ローラ嬢も裏の顔がバレたらマズイという意識があったのか、嫌がらせにもある程度の歯止めが効いていた。しかし聖女と認められてからは、令嬢たちが容易に逆らう事が出来ないのをいい事に、その歯止めが緩まってきている。マルグリット相手にしていた行いに加えて、超えてはならない一線ギリギリの行いなども増えてきている。最近はさらに激しさを増しており、超えてはならない一線を何時超えてもおかしくない状態だ。

 そして、そんな暴走状態のローラ嬢を、魔法学院の先生たちも止める事が出来ない。この国における聖女という権威けんいは、権威のトップである陛下や王妃、継承権の高い王子たちに次ぐ高さだ。その権威の高さから、先生だけでなく魔法学院の学院長すらも、ローラ嬢に対して苦言くげんていする事すら出来なくなってしまっている。


「これがローラ個人の話だけにとどまらず、生家であるベルナール公爵家の貴族としての力が増し、社交界でもベルナール公爵家の影響力は高まっているわ」

「新たなる聖女を生み出した家という事で、同列であるはずのカルフォン公爵家ですらも、ベルナール公爵家には強く出る事は出来なくなっています」

「カノッサ公爵家の場合はどうなんです?」


 俺はこの場にいるカノッサ公爵夫妻に、ベルナール公爵家への対応について聞いてみる。カノッサ公爵夫妻は、優雅ゆうがに紅茶を一口飲んだ後、微笑みを浮かべながら口を開く。


「心配する必要はない。元々ベルナールとは、政治的な領分で争っていないし、社交界でも派閥同士の争いはないからな」

「ただ家は、マルグリットを正式に養女むすめしたから、その件で何か仕掛けてくる可能性はあるわ。まあ、相手が牙をいて仕掛けてくるのならば、それ相応の報いを受けてもらいますけどね」

「ああ、そうだな。私の娘たちを傷つけるつもりならば、我がカノッサ公爵家が持つ力の全てを使って、彼らに絶望を味わってもらう。だから、イザベラたちは心配しなくていい」


 カノッサ公爵夫妻は微笑みを浮かべながらも、この国の最上位の貴族たる公爵として、一つの派閥を治めるトップとしての圧を放ち、娘たちへの想いを語る。その圧は凄まじく、この二人を本気で怒らせた時、ベルナール公爵家がどうなるのか目に見える。ベルナール公爵家が、マルグリットの事でカノッサ公爵家に何かを仕掛けてきた時、カノッサ公爵夫妻によって本当の地獄を見る事になるだろう。

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