第240話

「それじゃあ私はベイルトンに帰るけど、色々としっかりやりなさいね。もしこっちにちょっかいかけられたとしても、私たちがベイルトンを全力で守るわ。だからウォルターは、イザベラたちの事を全力で守るために、イザベラたちだけに集中しなさい。間違っても、私たちを助ける為にイザベラたちから離れて、ベイルトンに戻ってくる事は許さないからね」

「分かってるよ、母さん。俺は俺の守るべき人たちを、持てる力の全てを使って守るよ。それに母さんや親父、兄貴たちやベイルトンの皆が強い事を、俺は身をもって知ってる。暗き闇に付き従う様な奴ら相手に、母さんたちが簡単にやられるのは想像出来ないよ。……ベイルトンは任せたよ」

「――――ええ、任せない」


 母さんは真剣な雰囲気と表情で、俺にそう答えてくれる。そして、柔らかく優しい微笑みを浮かべて、両腕を大きく横に広げる。そんな母さんに対して、俺も優しく微笑みながら近づいていき、両腕を大きく横に広げて母さんを抱擁ほうようする。母さんも俺も、お互いにこれが今生の別れになるかもしれないという事を考えながら、暫くの間ギュッと力強く抱擁を続けた。

 ベイルトン辺境伯領にいる皆は、親父や兄貴たちを筆頭にして、優秀な魔法使いに魔女が揃っている。それに加えて、一騎当千いっきとうせん強者つわものたちである剣士たちもいる。魔境や周辺国の脅威きょういから、長きにわたってベイルトンを守ってきた皆がいるから、俺は安心してイザベラたちを守る事に集中出来る。

 最後にお互いの背中をポンポンと軽く叩き合ってから離れ、俺と母さんは顔を見合って一度頷く。


「親父や兄貴たち、それから屋敷の皆にも、婚約の件も含めてよろしく伝えておいてくれ」

「分かってる。お父さんもあの子たちも、ウォルターが王都で元気に過ごしている事も、守るべき女性たちを見つけて婚約した事も喜んでくれるわ。勿論、屋敷の皆も領民の皆も、ウォルターの慶事けいじを我が事の様に喜んでくれる。だから、必ず無事に生きて、笑顔で皆を連れてベイルトンに帰ってきなさい」

「約束する。必ず勝って、――――皆でベイルトンに行くよ」

「待ってるわ。……元気でね、私の愛しい息子よ」

「そっちも元気でね。親愛なる母さん」


 最後の挨拶を済ませた母さんは、カノッサ公爵家が手配てはいしてくれた馬車に乗り込み、ベイルトン辺境伯領へと帰っていく。母さんは後方の窓から上半身を乗り出し、暫くの間俺たちに向かって手を振ってくれた。俺たちも母さんに手を振り返し、カノッサ公爵家の屋敷から見えなくなるまで、母さんを乗せた馬車を見送った。

 母さんと約束した通り、俺は暗き闇との戦いに必ず勝利して、イザベラたちと一緒にベイルトンへと帰る。それで親父や兄貴たち、屋敷の皆や領民の皆にも、自慢の彼女たちを紹介する。そして、皆に祝福してもらって、イザベラたちと幸せな結婚式を挙げるんだ。

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