第239話

 神々の誰かに力を授かった訳でもなく、聖獣の誰かに力を授かった訳でもなかった。そして、アモル神が教えてくれた別の方法は、古の時代ならばまだしも現代ではほぼ不可能だった。

 特別な魔法による儀式に関しては、現代の魔法使いには実行する事が出来ない程の高度な魔法であり、ジャック爺であっても厳しいとの事。もう一方の特殊な薬草による心身の強化に関しても、そのかなめとなる特殊な薬草自体が容易に手に入らない程希少きしょうとなった為、公爵家であっても早々簡単に入手する事は出来なくなっている。

 ベルナール公爵家と言えども、ジャック爺に匹敵する魔法使いを複数人用意するのは不可能だ。そもそも、その特別な魔法による儀式に関して知っている魔法使いが、アイオリス王国のみならず周辺国にいるとは思えない。そして、特殊な薬草に関してもそうだ。古の時代とは環境など何もかもが違い、特殊な薬草が生えている群生地ぐんせいちも既に不明となっている。もし何年・何十年も前からベルナール公爵家独自で捜索そうさくしていたとしても、アイオリス王国だけでなく、周辺国にまで手を伸ばさなければ見つかる可能性は低いだろう。

 それに加えて、本当に特殊な薬草を見つけていたとしても、それを用いた心身の強化方法を知らなければ意味がない。これらの事などからも、ローラ嬢いてはベルナール公爵家が、儀式や薬草によって力を得たとは考えにくいという結論が出る。


「それらの事から考えられる、ローラ嬢が急激に力を得た可能性の高い方法は一つ。闘技場に襲撃を仕掛けてきたあの二人の様に、付き従う事を条件に暗き闇から力を授かったというものです」

「!?…………それは、間違いないのですか?」

「まず間違いないでしょう。他の神々や聖獣たちにも、力を授けたかどうかの確認は終えています。その結果、誰もローラという少女に力を授けたという事実はありませんでした。……そして、正しい方法で力を得る事が不可能となれば、ローラという少女が力を得た方法は自然と限られます。道を踏み外した外法によるものか、闇の存在から力を授かったと考えられるでしょう」

「外法か、闇の存在……。そのどちらの可能性が高いかと考えた時、闘技場に現れた暗き闇の存在の方でしょうね。しかし、傍系とはいえ勇者の血を引く者が、宿敵であるはずの暗き闇と手を結ぶとは。――――許されざる大罪だ」


 レギアス殿下が怒り心頭になるのも無理はない。この国を守るはずの貴族、それも貴族の中の最上位に位置する公爵家が、守るべき国と敵対する存在と手を結んだんだ。レギアス殿下だけでなく、他の真面目に生きている貴族たちからしても、到底許される事ではないのは明白だ。


「アモル様たちは、ローラ嬢をどうしようと考えているんでしょうか?」

「私たちは、彼女を暫く泳がせる事で、暗き闇が封印されている場所を探ろうと考えています。ローラという少女や両親だけで、暗き闇に接触出来たとは考えづらいですから」

「つまりこの国に、王都の何処かに暗き闇に付き従う者、協力者が潜んでいるという事ですか」

「ええ。それら潜んでいる者たちを探し出しつつ、暗き闇が封印されている場所を突き止めます」

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