第231話

「結論から言うと、彼女に力を授けた神はいなかったわ。勇者に力を授けた神も、この国で勇者と呼ばれた者に力を授けてからこれまでの間で、誰かに力を授けた記憶はないと言っていたわ」


 帯に宿っているアモル神の分霊が実体化し、古の勇者に力を授けた神や、他の神々たちに確認してくれた情報を教えてくれた。俺としては予想通りであったが、やはりローラ嬢はどの神にも力を授けられてはいなかった様だ。


「では、ローラの力が強化されたのは一体……」

「特別な魔法による儀式や、特殊な薬草による心身の強化。または、私たち神以外の存在から、何かしらの力を授かったかですね」

「そんな事が出来る存在が、神々以外にいるんですか?」

「この場にいる者の中で、ウォルターさんとジャックさん、それからローザさんは一度出会っていますね」


 俺はそう言われて、ジャック爺とローザさんを見る。ジャック爺もローザさんも、俺と同じくそれぞれに顔を向けて、三人が共通して出会っている存在について考えている。そして、ジャック爺とローザさんは何か思い当たる存在がいた様で、お互いに顔を見合わせてうなづき合っている。


「ジャック爺、ローザさん、何か思い当たる事があったの?」

「ウォルター、コーベット男爵領の森で、と言えば分かるじゃろ」

「!!……森の主、ケルノス様か」

「貴方たち人間は、彼らを強大な力を持つ魔物だと思っている様ですが、それは大きな間違いです。彼らは自然を愛し守護する存在であり、神々と共に世界を見守っている者たち、それが彼ら‟聖獣せいじゅう”です。そんな聖獣たちこそが、私たちと同じ様に人間に力を与える事が出来る存在となります」


 確かに、ケルノス様と森で対峙たいじした時に感じた強大な力には、禍々しさを一切感じる事はなかった。今にして思うと、あの荘厳そうごんな雰囲気は目の前にいるアモル神が、神がその身にまとっている雰囲気によく似ていた。


「神が人間に力を授けるのと比べて、聖獣たちが人間に力を授ける事は多いのでしょうか?」

「いえ、多くはありません。私たち神と同じく、判断基準も聖獣たちそれぞれで違いますし、自分たちが気に入った者にしか力を授けません。そして何よりも、武勇ぶゆうに優れていたり知識が豊富であろうとも、自然を愛する豊かな心がない者には一切見向きもしません」

「だとしたら、それこそローラが聖獣から力を授かるなんて考えられないわ」


 マルグリットの言う様に、あのローラ嬢が聖獣から力を授かるというのは、全くもって想像する事が出来ない。悪女と呼ぶに相応しい行いをしている、人をおとしめる様な事を平気で行う様な彼女が、自然を愛する豊かな心を持っていると到底とうてい思えないからだ。


「例えそうであるとしても、決めつけたまま確認する事をせず、相手の力を見誤みあやまるのは危険です。私が仲介ちゅうかいしますので、近くの森にいる聖獣に会いにいき、彼らから彼女の力について話を聞きましょう」

「了解です」

「もし聖獣たちも力を授けていなかった場合、彼女に力を授けた存在で考えられる可能性は一つ。マルグリット、覚悟をしておいてください」

「…………はい、分かりました」

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