第230話

 この世界の神々の一柱である、愛を司る女神たるアモル神と出会った俺たちは、暗き闇に対する新たな力を得て再び日常へと戻ってきていた。だが、何時も通りの日々を魔法学院で過ごしていた中で、ある日突然大きな変化が起きた。日が経つ事に激化していた女豹たちの戦いが、そのある日をさかいにして、理由が定かではないが徐々に鈍化どんかしていったのだ。自分こそが次期王妃に相応しいと自信満々だった彼女たちが、ローラ嬢に対して日に日に歯切れが悪くなり、強気の姿勢が崩れていったのだ。

 そのある日というのが、ローラ・ベルナール公爵令嬢が、正式にと認めらたという日。どの様な事を思ってなのかは分からないが、ローラ嬢はアルベルト殿下や側近たちに、突然その様な事を言い出し始めた。当初はアルベルト殿下や側近たち、女豹たちである貴族令嬢たちも、最初はローラ嬢の生まれ変わり発言を信じてはいなかった。しかし、どの様な手段を用いたのかは分からないが、それをアルベルト殿下や側近たちに認めさせたのだ。

 だが貴族令嬢たちは、簡単に信じ込んだアルベルト殿下や側近たちと違い、聖女ジャンヌにあこがれた過去の想いがよみがえり、ローラ嬢が生まれ変わりだと信じる事はなかった。しかし、そんなかたくなだった貴族令嬢たちも、質が高く広範囲で、回復速度の速いローラ嬢の回復魔法を見せられた事で、納得せざるを得なかった様だ。そしてそれを陛下や王妃、アモル教の教皇にも見せた事で、正式に生まれ変わりであると認められたという流れだ。


『実際の所どうなんですか?


 ベルナール公爵家の派閥に所属する貴族家の令嬢たちに、よいしょされて機嫌良くしているローラ嬢を見ながら、ふところ仕舞しまっているアモル神の魔力が宿っているおびに向かって問いかける。この帯は、人と神が触れ合い話す事が出来る場所から帰る時に、アモル神が俺たちに手渡してくれたものだ。この帯には魔力と共にアモル神の分霊がいており、本体のアモル神と意識や記憶を共有しているそうだ。俺たちはあの場所から帰ってきてから、毎日肌身離はだみはなさずこの帯を持ち歩く様にしている。


『私の記憶には、彼女個人に力を授けた記憶はありません。当然ですが、彼女の両親や祖父母、先祖にいたるまでその記憶は存在しません』

『つまり、完全に虚偽きょぎだという事ですか』

『ええ、間違いありません。しかし、彼女の血には勇者の血が流れています。私がジャンヌに力を授けた様に、勇者にも力を授けた神がいます。その神が再び力を授けた可能性があります』

『アモル様以外の神……。ですが、この国はアモル様を信仰する一神教いっしんきょうですよね?他の神々が自分の領域に介入してくる事に、アモル様や他の神々は何とも思わないんですか?』

『その辺に関しては、神々それぞれですね。私の場合は、他の神々がこの国の人間に力を授ける事に対して、特に何か思う事はありません。まあ他の神々が何か悪さをしようとしたら、それ相応に私も動きますけどね』

『なる程』

『勇者に力を授けた神によって、ジャンヌの才には及ばぬものの、そこそこの癒しの力を得られた可能性もあります。ですので、私の方で他の神々にその辺りの事を聞いてみます。それらが判明するまでは、下手に彼女に手出しする事なく、様子見ようすみとどめておくのが賢明けんめいでしょう』

『分かりました』


 アモル神の情報から、ローラ嬢が嘘を付いている事は確定となった。しかし、他の神々の誰かから力を授かっていた場合を考えて、俺たちはアモル神からの情報を待つ事に決めた。もし神から力を授かっていたとして、古の勇者に力を授けた神とは、一体どんな神だったのだろう?

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