第229話

 獰猛な肉食獣の笑みを浮かべた女神が心行くまで楽しみ、長い長い模擬戦を全力で戦い抜いた俺に、アモル神は愛の神らしく慈愛の笑みを浮かべながら合格を告げた。そんなアモル神は肌がツヤツヤになっていて、もの凄くご機嫌な様子で満足げにしている。あの長い長い模擬戦は、アモル神もお気にしてもらえた様だ。そして、アモル神が長い時間付き合ってくれたお蔭で、俺は愛の力によって強化された状態に完全に慣れることが出来た。


「実に見事です。稀人まれびととはいえ、ウォルターさんのたぐまれなる戦闘の才には驚かされました」

「!?…………やはり、知っていたんですね」

「当然です。私たち神々は、この星や世界を破滅に導くような存在がいないかと、常に警戒をしつつ見守っていますから。しかし、稀人が三人同時にこの世界に現れるというのは、私たち神々としても予想外ではありましたが」

「アモル様。俺たち三人が、前世の記憶をもったままこの世界に転生したのは、神々の誰かの意思が関係しているんでしょうか?」


 俺はアモル神に、俺たち三人が何故記憶を持ったまま転生したのかを、真剣に聞いてみた。神々の誰かの思惑でこの世界に招かれたのなら、その理由を知っておきたいと思ったからだ。真剣な俺の質問に、アモル神は優しく微笑みを浮かべてその口を開いた。


「ウォルターさんたち三人が、記憶を持ったままこの世界に来た事に、神々の誰かの意思は関わっていません。信じてもらえるかは分かりませんが、何かの運命に引き寄せられるかの様に、ウォルターさんたち三人は同時にこの世界へとやってきました」

「運命に、引き寄せられるかの様に……」

「私個人としては、記憶を持って転生した事に関して、ウォルターさんたちは気にする事はないと思っています。親兄弟を大切しながら自由にこの世界での人生を生き、クララたちと共に幸せに過ごして天寿てんじゅまっとうする。それでいいと思いますよ」


 アモル神は真剣な顔と雰囲気でそう言って、転生した意味について色々と考えていた俺の頭を、ゆっくりと優しく撫でてくれた。結局の所、何故俺たち三人が前世の記憶を持ったまま転生したのか、分からないままなのは変わらない。だがこの世界の神々の一柱であるアモル神から、親父や母さんたちこの世界でできた繋がりを大事にし、クララたちと一緒に幸せに過ごせと言われてホッと一安心する事が出来た。

 アイオリス王国を、いてはこの世界全てを自分たちの思う通りの世界にしようとする、暗き闇と付き従う者たちを倒す。これをげる事が出来れば、俺とイザベラたちの子や孫、そこから先の子孫たちが安心して生きていける。それと同時に、暗き闇を倒す事が出来なかった、クララの先祖である聖女ジャンヌの願いを叶える事が出来る。後の世に大きな災厄を残さざるをず、強い心残りをいだいたまま亡くなった聖女ジャンヌの為にも、俺たちで暗き闇を完全に倒す事を改めて決意した。

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