第228話

「まだまだいくわよ!!今は身体操作の制御は気にせずに、ただただ全力で動きなさい」

「――グァッ!!……了……解、です!!」


 アモル神が獰猛どうもうで好戦的な笑みを浮かべながら、竜巻の様に全てを破壊する激しさでもって、俺に拳や蹴りを放ってくる。放たれる一撃一撃の全てがもの凄く重い一撃で、防御する腕や足に響き、さらにはその奥の骨にまで衝撃が伝わってくる程だ。


「私が司っている愛は、家族や友人に対する親愛や、深く交わり合い満たされる男女の愛だけじゃないわ。芸術・音楽などの文化に対する愛や、海や森や山などの自然に対する愛。そして血沸ちわ肉躍にくおどる、命と命をぶつけ合う闘争とうそうに対する愛。中でも特に私が好んでいるのは、血沸き肉躍る激しい闘争への愛よ!!」

「――――グッ!!――ガァ!!」


 目の前にいるアモル神の愛の力によって心身が強化されているのに、模擬戦もぎせんが始まってから一方的に押され続けている。大幅に心身が強化されているのだが、アモル神は俺の動きに完璧に対応し、高速のカウンターを叩き込まれてしまう。勿論だが、アモル神は俺の心や思考を読み取るといった事はしていない。この模擬戦は、俺が愛の力に強化された状態に慣れる為というのもあるが、アモル神が闘争を楽しむ為のものでもあるからだ。

 俺は俺で、アモル神と全力での模擬戦を続ける事で、急速に愛の力による強化された状態に慣れていっている。常に全力の状態で戦っているので、自然と全力の状態での身体操作が磨かれていき、普通の状態の時と同じ様に精密な動きが出来る様になっていく。しかし、それでもアモル神と互角に戦うのには、もう一歩が足りないと直感が訴えかけてくる。実際、ここまでアモル神を観察してきて分かったのは、俺とアモル神とでは愛の力の本質が何か違うという事だ。

 アモル神が愛を司る女神である事や、俺がクララを通して愛の力の恩恵を受けているという事もあるが、それでもアモル神と比べて何かが一段階劣る。そんな事を全力で戦いながら考えていた時、ふと愛とは何かという根本的な事へと疑問がいてきた。


(愛とは、ただ幸せなだけでは成り立つ事はない。愛から生まれるのは決してプラスの感情だけではなく、愛する者に感じる不安や悲しみなどの、マイナスの感情も存在する。俺とアモル神の違いはそこか)


 愛する者に感じる不安や悲しみ、愛する者が持つ欠点や醜い感情など、それらマイナスの感情すらも愛として受け入れる事で、アモル神は愛の力を光も闇も併せ持つ大きな力にしているのだ。

 俺は意識を集中させて、身体に流れ込んでいるプラスの感情に、自分の中にあるマイナスの感情を混ぜ合わせていく。混ざり合った二つの感情は一つの大きな感情となり、身体に流れ込んでいる愛の力が一段階上の領域へと昇華しょうかする。全身に昇華した愛の力が循環し、心身をさらに強大な力で強化する。その強大な力は、荒れ狂う暴力的な動の力ではなく、静かで揺らぐ事のないせいの力だ。


「ジャンヌですら、ここまで短時間で愛の力の本質には気付かなかったというのに。さらには、気付いて直ぐに一段階上の領域に昇華させる事が出来るなんて、――本当に素晴らしい!!」

「ありがとう……ございます!!」

「それでは、もっと激しく、心行こころゆくまで楽しみましょう!!」

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