第227話

 クララの身体から神々しい膨大な魔力が溢れ出し、アモル神から授けられた愛の力を発動させた。その瞬間クララ自身の心身のみならず、肉体・精神共に深く交わり合い満たされている俺たちの心身にも、アモル神の愛の力が流れ込んでくる。心身が愛の力によって大幅に強化され、全身の感覚が一気に変化していく。その急激な変化に驚きつつも、この状態に慣れる為にも集中して身体を動かす。


(思ったりも身体の反応が良すぎる。頭ではほんの少し動かそうと思っていても、実際には予想よりも大きく動いている。このままだと、精密な身体操作は出来ないな)


 余りにも、普通の状態と動きの感覚が違い過ぎる。強敵と戦う時には、動きに少しの無駄も許されない。無駄が多すぎる現状は、相手にとっていいカモにしかならない。これは想定よりもはるかに早く、アモル神の愛の力による強化状態に慣れなけばいけないな。


「やはり、ウォルターさんの様な身体の使い方を熟知じゅくちしている剣士の方には、私の愛の力による変化は良くも悪くも大きすぎるようですね」

「はい、その様です。属性魔法が使えないからこそみがき抜いた身体操作が、愛の力の恩恵によってここまで苦しめられる事になるとは、正直に言って予想外でした」

「ジャンヌと共に戦った勇者も、ウォルターさんと同じく身体操作に優れていました。彼もまた、親愛の感情による強化ではありますが、普段の状態との差に苦しめられていました」

「聖女ジャンヌたちは、どうやって愛の力で強化された状態に慣れていったんですか?」

「ジャンヌや勇者たちは、この時間の進まない空間で、私と幾度いくどもの模擬戦もぎせんをして慣らしました」

「え?アモル様とですか?」

「はい、そうです。私こう見えても、なかなかにやれるんですよ」


 アモル神はそう言って、右目を閉じてウインクしてくる。その可愛らしい姿に、女神であるという事を忘れて可愛い方だと思ってしまう。そんな俺の思考を読み取ったのか、アモル神は嬉しそうに微笑む。アモル神の微笑みを見て、自分の思考が読み取られた事が恥ずかしくて、勢いよく頬が赤くなっていくのを感じてしまう。


「女神様相手に大変失礼な事を考えてしまい、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、可愛らしいと思ってくれてとっても嬉しかったです。私は愛を司る女神であると同時に、一人の女性でもありますから。最近は同じ神々からも女性扱いではなく、上司と部下の様な感じになってしまっていて…………」

「そ、そうでしたか。何にしても、アモル様が喜んでいただけたのならよかったです」

「ですので、嬉しい事を言ってくれたウォルターさんには、私と二人っきりの特別な時間模擬戦を過ごす権利を与えましょう」


 アモル神の表情や雰囲気がガラリと変化し、可愛らしい女性から凛々しく威厳のある女神へと変わった。そして、浮かべていた微笑みも可愛らしいものから妖艶ようえんなものに変わり、全身からもあでやかな女の色気がただよっている。そんなアモル神から向けられる色気のある流し目に、心臓がドキドキと高鳴って反応してしまう。それもまた見透かされてしまったのか、アモル神は満足そうに妖艶な笑みを深めて、獲物えものを品定めする肉食獣の様な目で俺の事を見詰めていた。

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