第225話

 神々の一柱にして愛を司る女神であり、聖女ジャンヌに力を授けた神。腰まである蜂蜜はちみつ色のつややかな髪に、右目が赤色で左目が青色のオッドアイの、母性が全身から溢れ出ている美人な女性。それが、俺たちの前方に現れたアモル神の姿だ。この世界の神がそうなのか、アモル神だけがそうなのか分からないが、外見は人間と特に変わらない様だ。

 そんなアモル神は、クララと楽しそうに会話をしている。セラス男爵夫人の娘であり、聖女ジャンヌの末裔である事から、アモル神も気さくに話しかけている。クララのもう一人の母親であるかの様に、普段の日常での様子や魔法使いとしての鍛錬についてなど、本当に色々な事を質問している。そんな質問一つ一つを、クララは丁寧に分かりやすく答えていく。そして、暫くの間クララと会話を続けていたアモル神が、満足したかの様に頷いてニッコリと笑みを浮かべた。


「――合格」

「え?」

「クララ、貴女は私が授けた力をふるうに相応しい女性よ。授けた力を使用する事を、愛の神たるこのアモルが認めましょう」

「……は、はい!!ありがとうございます」


 突然アモル神が力を使う事を認め、クララは驚きながらも喜び、頭を下げて感謝の言葉を告げる。もしかしてだが、先程まで楽しそうにしていた会話は、クララという一人の人間を見極めるためのものだったのかもしれない。セラス男爵夫人が、嘘を付く事も見栄を張る事もせずに、何時も通りの自然体でいなさいと言っていたのはこういう事だったのか。どういった条件があったり、細かい制約などがあるのか分からないが、神々が相手の心や思考を読み取れるというのはまず間違いないな。


「それじゃあ、私の授けた力について説明するわね」

「はい、お願いします」

「ジャンヌに授けた力は、私がつかさどっている愛の力。その愛の力によって、私が力を授けた者の心身だけだけでなく、繋がりの深い周囲の者たちの心身も強化されるの」

「繋がりの深い周囲の者たち……」

「正し、私たち神の力とて万能ではないわ。私の力のみなもとは愛。ゆえに、愛の深さや大きさによって、強き力にもなれば弱き力にもなる」

「愛の深さや大きさ、ですか」

「そうよ。暗き闇と戦った時、ジャンヌ個人の強化は強き力だった。ただ勇者や暗き闇を封じた神官の強化は、親愛という強くもあり弱くもある力になってしまったの。その事もあって、暗き闇と真っ向から対等に戦う事は出来ても、暗き闇を凌駕りょうがして圧倒する事までは出来なかったわ」

「親愛の感情という愛では、暗き闇を倒す事は出来ないという事ですか」

「私の授けた力が最大限まで発揮されるのは、残念ながら友人や家族に対する愛ではないの。愛が最も深く大きく、強く濃い繋がりによって比類なき強大な力となるのは、肉体・精神共に深く交わり合い満たされる男女の愛よ」

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