第215話

 今日はナターシャ魔道具店本店である王都店に、カトリーヌさんとローザさんの誘いで訪れている。ローザさんの一存による貸し切りで、何時も人で賑わっている店内が静まり返っている。一日貸し切りで休業してしまって利益は大丈夫なのか心配したが、カトリーヌもローザさんも大丈夫だと微笑んでいた。王都一と言ってもいいナターシャ魔道具店ともなれば、一日貸し切りで休業するくらいはでもないという事なのだろう。


「ローザよ、今日は一体何の用事で呼びつけたんじゃ?」

「ジャック、そう焦るでないわ。とりあえず、場所を変えるから付いてくるんじゃ」

「途中で何かに目移りしてはぐれちゃだめよ」


 ローザさんとカトリーヌの先導に従い、店の奥に向かって足を進めていく。店の奥には、何時もと変わらず高品質の魔道具が数多く並べられており、ナターシャ魔道具店の魔道具師たちのレベルの高さがうかがえる。そんな高品質な魔道具が並べられているスペースを抜けて、従業員用である関係者以外立ち入り禁止のスペースへである、バックヤードの中へと足を踏み入れていく。

 ナターシャ魔道具店本店のバックヤードは、代々の当主や優秀な魔道具師たちが作った魔道具によって、清潔感があって利便性が非常に良い、働く従業員たちの事を第一に考えられている快適な空間となっている。水回りにキッチンなども完備されているし、従業員が寝泊りが出来る様に部屋も用意されているといった、至れり尽くせりの充実ぶりだ。

 そんな快適なバックヤードをさらに奥へと進んでいき、俺たちはバックヤードの最奥に到着した。そこには一つの扉があるだけであり、他には部屋も何もない。つまりここは、アイオリス王国中にあるナターシャ魔道具店を統べるオーナーであり、アウレリア家現当主にして十五代目‟ナターシャ”の執務室兼私室という事だ。


(この部屋に入るための扉一つに、もの凄い数の魔法が仕掛けられているな。しかも一種類の罠の魔法だけでなく、色々な種類や系統の罠の魔法を緻密に仕掛けている。流石、ジャック爺が同格だと認める超一流の魔法使いだな)


 ローザさんは扉の正面に立って右手の掌を向け、扉に自分の魔力を流し込んでいく。流し込まれた魔力に扉が反応し、魔法によってかけられいる三つの鍵が一つずつ解除されていく。そして、三つ全ての鍵が解除された扉が、ゆっくりと自動的に開いていく。ローザさんは開かれた扉を通り、執務室兼私室の中へと入っていく。その後を続く様に、ジャック爺やカトリーヌさんが部屋の中へと入っていく。俺やイザベラたちも後に続いて部屋の中へと入ると、自動的に開いていた扉が再び自動的に閉じていき、閉まり切った扉に魔法によってかけられた三つの鍵が一つずつかかっていった。扉が完全に閉まった後、ローザさんが執務机の前でこちらに振り返る。


「ようこそ、‟ナターシャ”の執務室へ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る