　今日は母さんが王都に訪れてから最初の休日、皆で王都を巡って買い物などしようかという話となり、朝一番に公爵家の屋敷を出発して王都の色々な場所を巡ってきた。ベイルトンでしか手に入らない特色のあるものもあれば、王都でしか手に入らない王都らしいものもある。母さんはアンナ公爵夫人やイザベラたちに、その王都らしいものを中心にして王都を案内してもらい、自分用から領民たち様にと沢山買い込んでいった。

　そして沢山買い物をした後は、王都でしか店を出していない飲食店に向かい、美味しい食べ物に舌鼓を打った。食後の休憩を各自で取りつつ、お昼からどうするかを話している時に、アンナ公爵夫人から一つの提案が出た。それが、ダミアンさんの劇場で例の劇を見てみようという事だった。例の劇とは勿論、魔法競技大会における、漆黒の闇と付き従う者たちとの戦いの事だ。母さんにもあの戦いに関してや、漆黒の闇についての説明は済ませてある。だが、言葉だけで情報を完全に伝える事は難しい。アンナ公爵夫人は母さんにあの劇を見てもらう事で、漆黒の闇たちとの戦いの様子などが、少しでもイメージしやすくなると思ったんだろう。

　予定が決まれば早速とばかりに、俺たちはダミアンさんの劇場に向かって移動した。ダミアンさんの劇場には、魔法学院在学中に何度か劇を見に訪れた事がある様で、母さんは懐かしそうに劇場を見上げて見つめている。

「アンナ様、イザベラお嬢様、それに皆様方も、本日はお越しくださりありがとうございます。今日は、最新作のあの劇を見にいらしてくれたんでしょうか？」

「そうね。王都の人々からも人気だと聞いているし、どんな感じになったのか気になったから、直接見に来させてもらったわ」

「そうでございますか。でしたら、皆様が心より満足いただける劇となっている事を、私がお約束致します」

「もの凄い自信ね」

「賢者様が最初から最後まで協力してくださった事もあり、魔法の演出もより一層素晴らしいものとなっております。さらに、戦いに関しての知識を授けていただいた事で、実際の戦闘の様子に近づけたのではないかと自負しております」

「なる程。賢者様自らが劇全体に関わっていらっしゃるのなら、ダミアンの強気の姿勢にも納得だわ。これはまた一段と劇を見るのが楽しみになったわね」

「ありがとうございます。では皆さま、私どもで特別な部屋をご用意させていただきましたので、そちらでお寛（くつろ）ぎいただきながら劇をご覧になってください。では、ご案内いたします。私の後に付いてきてください」

「ええ、お願いするわ」

　ダミアンさんの後に続いて案内された観劇部屋は、公爵夫人一行という事もあり、最高級クラスの観劇部屋だった。至れり尽くせりでサービスが充実しており、どの様な注文にも対応出来る様にしているのが分かる。そして、その観劇部屋には先客が一人座っていた。座っている人物のその顔には強い自信が表れていて、劇の大成功を信じて疑っていないのが伝わってくる。そんな自信満々で席に座っているのは、今回の劇の演出を総監修した立役者で、今回の劇の主役であるジャック爺だった。