第210話

「あの場面では…………」

「へぇ~」

「ここは儂と彼らで…………」

「なる程。確かにあれは凄いわね」


 こんな感じで、ジャック爺は観劇しながら母さんに色々と解説をしている。母さんは、ジャック爺の解説に反応しながらもしっかりと観劇して楽しんでいる様で、表情が驚きや感心といったものに変わっている。ただアンナ公爵夫人やイザベラたちには、静かに観劇する事が出来ないのを申し訳なく思っている。


「ジャック爺がうるさくしてしまって申し訳ありません」

「全然大丈夫よ。寧ろ、賢者様が細かい所まで教えてくれるから、何時もと違う観劇となっていて面白いわ」

「確かに、今まで色々な観劇をしてきたけど、こんな風に解説されながら観劇した事なんてなかったわね」

「逆に新鮮で面白いし、細かい解説なんか好む人には受けるだろうね。対策としては賢者様がやっているみたいに、風の属性魔法なんかを使って周囲に声が漏れない様にすれば、周りの迷惑になる事もないかな」

「そうですね。貴族の中には、他の者たちと楽しく語り合いながら観劇をしたいと思っている方が、一定数はいるはずです。そこまで徹底すれば、他の方も文句は言わないと思います」

「そういった方々には、賢者様の様に細かい解説をされながらの観劇は、もの凄く楽しいものになりそうですね」


 確かにそこまで徹底するならば、観劇のマナーにのっとりつつ、他の観劇しているお客さんの迷惑になる事もないだろうな。実際、今回ジャック爺が風の属性魔法を使い、この部屋からの音が外に漏れない様にしているから、解説する事をダミアンさんに許されていると聞いている。恐らくダミアンさんも、色々と面白そうだと感じたからこそ、今回のジャック爺の行動に許可を出したんだろうな。新たな商機を見逃さないのは、流石王都で有名な劇場と劇団を差配する、やり手の一流支配人だなと思った。

 劇が一番の見せ場となる理知的な男との戦いとなると、ジャック爺のみならず静かに観劇している他のお客さんたちも、テンションが徐々に上がっていっているのが伝わってくる。それもそのはずで、目の前に広がるジャック爺と理知的な男の戦闘を再現したシーンは、もの凄い再現性と作り込みであったからだ。ちゃんと漆黒の炎なども再現されているし、空中での激しい戦闘でのぶつかり合いも、本物の魔法戦闘そのものに感じる程だ。ジャック爺の監修の素晴らしさもさることながら、劇団員さんの魔法使いとしての力量の高さや、役に対する深い作り込みが伝わってくる。

 お客さんたちは、目の前で起きている本物の魔法戦闘さながらの演出を、食い入るように見つめている。そして魔法戦闘のクライマックスに近づくにつれ、お客さんたちの興奮も最高潮に達していく。闘技場でのジャック爺と理知的な男の戦いで、多くの人たちの記憶に焼き付いたであろう氷のドラゴンが舞台の上に現れ、漆黒の蛇やワイバーンを蹂躙していく。最後に舞台の上に巨大な魔法陣を展開し、漆黒の雷を理知的な男役の劇団員へと叩き込み、理知的な男役の劇団員は舞台上に倒れこむ。

 そして、ジャック爺役の劇団員が勝利のときの声を上げて、他とは一線をかくすもの凄い劇の幕が閉じた。お客さんたちはスタンディングオベーションをし、素晴らしい劇を見せてくれた劇団員たちに向けて、最大の賛辞さんじを惜しみなく送った。俺たちも、その素晴らしい劇を見せてくれら劇団員、それを総監修したジャック爺に対して惜しみない拍手を送った。


(これだけの劇を見せられたら、そりゃ噂にもなるし人気にもなるわな。深い作り込みに、なによりも魔法戦闘の再現性が素晴らしかった)

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