第205話

 俺が正式にイザベラの騎士となり、魔法学院に皆と一緒に通い出してから一週間が経った。この一週間で魔法学院にも色々と慣れてきて、イザベラたちの派閥の生徒たちとも親しくなり、今の所特に問題なく過ごしていた。今日も今日とて平穏に過ごしていた時、それが俺の視界の中に映り込んできた。


(あれは……アルベルト殿下と、マルグリットの妹のローラだったか?)


 そこにいたのは、闘技場での決闘以来一週間ぶりに姿を見たアルベルト殿下と、マルグリットの誕生日パーティーでその姿を見た、マルグリットの妹のローラ嬢だった。二人は傍に寄り添うかの様に近くに座っており、親密そうに何かについて話している。アルベルト殿下や側近たちはまだナタリーへの想いが強く残っており、決闘に負けた事や接触禁止となった事で、もの凄く落ち込んでいるという話を聞いている。   

 ローラ嬢と話しているアルベルト殿下は目に見えてテンションが低く、そんなアルベルト殿下をローラ嬢が必死に慰めている様にも見える。そんな事を思っていたら、ローラ嬢がスッとアルベルト殿下に急接近し、アルベルト殿下の頭を自分の胸に抱き寄せた。アルベルト殿下はやんわりと拒否しようとするが、ローラ嬢が頭を抱き寄せたまま何かを言い、優しく頭を撫でていくと黙って受け入れ始めた。その光景は、第三者から見ると完全に恋人同士の姿に見える。


(あの漫画の主人公も、こんな風に‟計画通り”って思ったのかね~。ただあの主人公とは違って、その邪悪な気配が一ミリも隠せてないがな)


 しかし、この光景を見たのはこれだけで終わらなかった。ある所ではセドリック殿と、またある所ではフレデリック殿と、そしてまたある所ではマルク殿と言った様に、アルベルト殿下としていたものと全く同じ光景を見せられた。

 そのどれもにローラ嬢の邪悪な気配が隠し切れておらず、さらに周囲にその光景を見せつけるかの様にしているため、周囲の生徒たちの反応が色々と凄い。ローラ嬢に嫉妬や苛立ちの視線を送る人もいれば、キャーキャーとアルベルト殿下や側近たちの新たな恋に騒ぐ人もいる。さらにはローラ嬢に恋心を抱いていた男子生徒たちが、恋人同士の様な事をしているアルベルト殿下や側近たちに向けて、女子生徒たちと同じ様に嫉妬や苛立ちの視線を送っていた。ローラ嬢は、女子生徒の視線に対しては優越感を抱いたニヤリとした笑みを浮かべ、男子生徒の視線に対しては優しい笑みを浮かべ、自分が優しさや心配からこうしているというアピールをしていた。

 ベルナール公爵家全体の動きは分からないが、どうやらローラ嬢個人としては、マルグリットを陥れる事に成功した事で空席となった、アルベルト殿下の婚約者の席に自分が座る気満々の様だ。さらには、同じく傷心中の側近たちも慰めつつ誘惑し、自分に依存させる事で逆ハーレムを目指している様だ。マルグリットのベルナール公爵家追放に関してああもとんとん拍子に進んだ背景の一つには、マルグリットに変わりローラ嬢をアルベルト殿下の婚約者にするという、ベルナール公爵家当主のイヴァン・ベルナールとローラ嬢の思惑が一致した結果なのかもしれない。


(まあその結果、お前たちの様な下衆な連中のいる家から、マルグリットが抜け出す事が出来た。そして、これからは俺たちがずっと傍にいて、マルグリットを悲しませる事はない。この先、マルグリットは笑顔で人生を過ごすんだからな)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る