第196話

「ウォルターさん!!」

「ナタリーさん、勝ってきました」


 ナタリー嬢が目の端に涙を浮かべながら、俺に勢いよく飛びついてくる。そんなナタリー嬢を優しく抱きしめて、背中をゆっくりとさすって安心させてあげる。ナタリー嬢も俺の身体に両腕を回して、ぎゅ~と力一杯に抱きしめ返してくれる。そのまま暫くの間、互いに互いを抱きしめ合い続けた。


「ウォルター、ようやった」

「流石、私たちの旦那様ね」

「どの決闘も圧倒的でした」

「しかも、戦い方が一試合ずつ違うというおまけ付き」

「完膚なきまでの勝利、お見事でした」


 ジャック爺やイザベラ嬢たちが、それぞれ祝福の言葉を俺にかけてくれる。俺は、そんな皆にお礼を言いながら笑って返す。周囲の観客たちからジロジロと視線を感じるが、俺たちはお構いなしに会話を続けていく。


「ウォルターさん、ナタリーの為にありがとうございました」

「私たちの娘は、ウォルターさんのお蔭で望まぬ人生を送る事はなくなりました」

「いえ、これは俺の問題でもあり、俺の為でもありましたから」

「……ウォルターさん」


 ナタリー嬢は頬を赤く染め、両目を閉じてその愛しい顔を近づけてくる。俺は腰に添えていた右手をナタリー嬢の頬へともっていき、優しくその頬を撫でながらキスを一つする。ナタリー嬢の心や愛が伝わってくるので、俺もナタリー嬢に心と愛を伝えていく。心が愛で満たされていき、ポカポカと幸せな気持ちで溢れていく。ナタリー嬢と何度もついばむ様にキスを繰り返し、溢れる愛を伝え合っていく。


『ウォルターさん』

「ウォルター君」


 そんな風に愛を伝えあっていると、イザベラ嬢たちやカトリーヌさんが俺たちに近寄ってくる。それに気付いたナタリーさんは、柔らかく微笑むとスッと俺から離れ、イザベラ嬢たちに場所を譲る。そして、近寄ってきたイザベラ嬢たち一人一人と順番に、ナタリー嬢と同じ様についばむ様なキスを繰り返し、イザベラ嬢たちとも心と愛を伝え合っていく。

 ジロジロと無遠慮に俺たちを見ていた観客席の人々は、ナタリー嬢と愛を伝え合うだけなく、イザベラ嬢たちとも愛を伝えあった事に驚きの声を上げる。そして、女性陣はキャーキャーと黄色い声を上げ、男性陣は羨ましがったり嫉妬して睨んできたりしてきた。俺たちは外野の反応を気にする事なく、暫くの間皆とイチャイチャとし続けた。


「ははは、楽しませてもらったよ。ウォルター君」

「そうじゃな、実に愉快であったの。ここまで愉快だと感じたのは、本当に久しぶりじゃ」


 そう言って俺たちに近寄ってきたのは、ローザ・‟ナターシャ”・アウレリアと、ラインハルト王弟殿下の二人であった。どちらももの凄く上機嫌で、ニコニコと笑顔を浮かべている。アルベルト殿下と側近たちが決闘に敗れた事が、二人にとっては余程痛快な出来事だった様だ。


「それに、我々の要望を見事に叶えてくれた」

「あそこまで徹底的に叩きのめされれば、魔法使いとしても男としても、ウォルターとの格の違いを十分に思い知ったじゃろう」

「それでもまだ悪足掻きをするようならば…………」

「…………私らも、もう容赦はせん」


 この国に多大な影響力を持つ二人が、黒い笑みを浮かべながらそう言う。今後何かあった時には、カノッサ公爵家やジャック爺同様に、二人にも真っ先に頼らせてもらおう。

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