第195話

 決闘の第四戦にして最終試合。最後の相手となるのは、アイオリス王国魔法師団長の息子であり、次期魔法師団長と目されているセドリック・ピエールだ。ブラウンにブラックのラインが入っている軍服風の服を身に纏っており、木剣を腰に差して、右手には棒術も使えそうな頑丈な魔法使いの杖を持っている。杖そのものは良い素材で作られており、魔法師団長が持つに相応しいと言える代物である事が分かる。魔法師団長の息子であり、次期魔法師団長として育てられたという事や、セドリック殿自身の魔法使いとしてのプライドの高さもあり、今回の決闘は最初から魔法のみで戦う事が予想出来る。


「両者、準備は宜しいですか?」

「私は何時でも大丈夫です」

「俺も大丈夫です」

「それでは、第四戦――――始め!!」


 セドリック殿は、腰に差している木剣を左手で抜き放ち、右手に持つ杖の先端を地面に叩きつける。すると、セドリック殿の周囲に色とりどりの魔法陣が展開され、様々な属性の剣を生み出していく。剣一つ一つに膨大な魔力が込められているが、大きさは属性によって変えられており、それぞれの属性の強みを意識しているのが見て分かる。セドリック殿が再び杖を地面に叩きつけると、幾つもの魔力の剣が一斉に放たれ、それぞれの速度でもって襲い掛かってくる。

 襲い掛かってくる色とりどりの魔力の剣に対して、俺は左手に膨大な魔力を集中させて、スーッと右薙ぎに振るっていく。左手の動きに合わせて、俺の周囲に魔力の剣が形作られていき、迫りくる色とりどりの魔力の剣と同数の魔力の剣が生まれる。それらを一斉に放ち、色とりどりの魔力の剣と真正面からぶつけていく。ぶつかり合った魔力の剣は、魔力の反発によって大きな爆発を起こし、強い衝撃波を吹き荒れて土煙が舞う。

 土煙によって視界が悪くなったと同時に、セドリック殿の魔力が一気に高まっていく。魔力感知によってセドリック殿の魔力の動きを見ると、右手に持つ杖と左手に持つ木剣の両方に、膨大な魔力を込めていっているのが分かる。セドリック殿は木剣を振るって魔力の刃を飛ばし、右手に持つ杖の先端に水の槍を生み出し、俺に向けて高速で放ってくる。土煙を切り裂き穿ちながら、魔力の刃と水の槍は高速で俺との距離を詰めてくる。だが、その動きは魔力感知によって全て筒抜けとなので、魔力の刃と水の槍を簡単に避ける。


「それは織り込み済みだ」

(なる程。避けられる事も想定済みという事か)


 後ろへと飛んでいった魔力の刃と水の槍は、俺の魔力を目印にして方向転換をして、再び高速で襲い掛かってくる。流石は、次期魔法師団長として育てられた魔法使いといった所か。正直ここまで出来るとは思わなかったな。セドリック殿の評価を上方修正しながら、土煙の中で魔力の刃と水の槍を避け続ける。


「さらに追加だ!!」


 セドリック殿の周囲に黒い魔法陣が現れ、そこから漆黒の狼たちが生み出されていく。漆黒の狼の群れは、低く唸りながら威嚇して一気に加速し、土煙の中を駆けて襲い掛かってくる。どうやら、漆黒の狼の群れも俺の魔力を目印にしている様で、正確に俺のいる位置に向かってきている。良い連携で動きながら、鋭い牙で肉を喰らおうとし、鋭い爪で肉を切り裂こうとしてくる。魔力の刃と水の槍との連携も相まって、休む間もなく攻撃が続いていく。この状況を変える為には、まずは追尾してくる魔力の刃と水の槍の方を対処する。

 魔力を目印にして追尾してくるなら、その目印である魔力を感じさせなければいい。自分の身体から漏れ出てしまっている魔力を制御して、完璧に身体の内側へと抑え込み、セドリック殿に魔力を一切感知させなくする。目印である俺の魔力を感知出来なくなったために、魔力の刃と水の槍は方向転換する事なく進んでいき、闘技場の壁にぶつかって消えていく。さらに漆黒の狼の群れも、目印である俺の魔力を感じられなくなり、その動きや連携が鈍っていく。木剣の剣身に魔力を纏わせて、土煙の中を静かに移動して、漆黒の狼の群れを一匹ずつ仕留めて消していく。そして、最後に大きく一振りして土煙を一気に払う。


「――――ここだ!!」


 セドリック殿は、土煙が払われ視界が綺麗になった瞬間を狙った様で、俺の周囲に幾つもの赤い魔法陣を展開し、巨大な燃え盛る炎の球体で包囲してきた。巨大な火球によって完全に逃げ道をふさぎ、セドリック殿はフレデリック殿と同じ様に、勝利を確信した笑みを浮かべた。その時点で、完全に集中が途切れて思考が鈍っているのが分かる。


(勝負を仕掛けるなら今だな)


 俺は木剣を素早く腰に差し戻し、両手に膨大な魔力を集中させる。そして、十本の指から極細の魔力のワイヤーを幾つも放ち、それらを自由自裁に操る事で、巨大な炎の球体を核ごと全て細切れに切断する。細切れにされた巨大な炎の球体は、幻であったかの様にスーッと消え去っていく。


「何故だ!?何故私の炎が消えた!?――――一体何をした!?」


 勝利を確信していたのに、未知の現象によってその勝利が崩れた事で、セドリック殿の精神が大きく揺さぶられた。精神状態が不安定な状態のままだが、自身の周囲に幾つもの魔法陣を展開し、魔力の剣や槍などを大量に生み出して放ち続けてくる。放たれる攻撃の全てを、極細の魔力のワイヤーを自由自在に操って細切れに切断し、俺の近くに到達する事もなく消え去っていく。極細のワイヤーを木剣と杖へと伸ばして絡ませ、同時に切断する事で使用不可能にする。


「な!?――私の杖が!?」

(ここで一気に決める)


 直ぐさま極細のワイヤーを鎖に変化させ、セドリック殿の身体全体をガチガチに拘束していく。木剣と杖を失いながらも魔法を発動しようとするが、突然現れた魔力の鎖による拘束でパニックになり、魔力も魔法陣も不安定となって不発に終わる。そこに、魔力の鎖で形作った両腕で二連撃を叩き込む。魔力の鎖で全身を拘束されているため、セドリック殿はその場から一切動けないままに、魔力の鎖の拳の威力と衝撃をモロにその身に受けた。二連撃をモロに受けたセドリック殿は、全身から力が抜けてダラリとし、項垂れる様に頭がガクリと下を向いた。

 俺が魔力の鎖による拘束を解くと、審判を務める男性がセドリック殿に近づき、完全に意識を失っている事を確認した。そして、ここまでの三戦と変わらず、口を開いて勝者を告げる。


「この決闘、勝者――――ウォルター・ベイルトン!!」


 これで、アルベルト殿下と側近たちは決闘に敗れた敗者として、ナタリー嬢に近づく事は許されなくなった。だが、そんな敗者であるアルベルト殿下たちの親は、この国のトップと非常に強い権力を持つ貴族家たちだ。息子可愛さに、何かしてくる可能性もある。この先どうなるのか分からない事から、今後も一切油断は出来ないな。

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