第163話

 コーベット男爵の屋敷に到着し、早速肉のダンジョンへ……とはいかず、数日間は男爵領内でのんびりする事にした。それから、この領の最大の強みであり魅力である、畜産の現場を中心にして見学させてもらえる事になった。


「ウォルター兄ちゃん、抱っこ!!」

「私も私も!!」

「クラリス、フラウ、我儘わがまま言っちゃダメだよ」

「ゲオルグ君、それくらいなら大丈夫だよ」

「ご迷惑じゃありませんか?」

「全然。それに身体を鍛えているから、二人を抱っこするくらいは苦じゃないよ」

「……ありがとうございます」

「おいで、二人とも」

「「やったー!!」」


 俺にそう言って頭を下げるのは、ブラウンの髪に瞳をした十二歳の男の子。コーベット男爵に非常にそっくりな顔立ちをしている、コーベット男爵家長男のゲオルグ・コーベット君だ。ゲオルグ君は一見すると優男に見えるが、コーベット男爵同様に、鍛えられた身体が服の下に隠されている。男爵家の後継者として、日々鍛錬や勉学を欠かさない真面目な子だ。

 そして俺に抱っこをせがんでくる小さなお姫様たちは、ブラウンの髪に瞳をした五歳と三歳の女の子。ゼノビアさん譲りのふんわりとした雰囲気と美貌びぼうを受け継いだ、コーベット男爵家次女のクラリスちゃんと、三女のフラウちゃんだ。

 クラリスちゃんとフラウちゃんは、俺の呼びかけにキャッキャッと喜び、はしゃぎながら近づいてくる。俺は膝を曲げてその場にしゃがみ込み、ニッコリと笑顔を浮かべながら近づいてくるクラリスちゃんとフラウちゃんを、優しく身体で受け止めてあげる。そのまま右腕でクラリスちゃんを、左腕でフラウちゃんを抱きかかえて、気を付けながらゆっくりと立ち上がる。


「「高ーい!!」」

「暴れたりしちゃダメだよ。落ちたら怪我しちゃうからね」

「「は~い」」


 クラリスちゃんとフラウちゃんを両腕に抱えたまま、庭や屋敷内を歩き回る。二人とも高い視点で景色を見る事の新鮮さに、腕の中で喜んだり驚いたりしている。そんな二人を、ゲオルグ君も微笑ましく見ている。

 屋敷内を歩いている時にイザベラ嬢たちと合流し、コーベット男爵やゼノビア男爵夫人に許可を得て、屋敷周辺の領内にまで足を延ばした。領内の人たちは皆温かい人たちばかりで、クラリスちゃんやフラウちゃん、ゲオルグ君に笑顔で手を振っている。その光景を見ただけで、コーベット男爵家の人たちが、領内の人たちにどれだけ慕われているのがよく分かる。

 のどかな景色を、自然豊かな景色を楽しみつつ、皆でのんびり和やかに過ごす。王都の活気のある喧騒も好きだが、こうして静かでゆったりとした場所で、のんびりとして過ごす時間もまた好きだ。今世では、こうしたのんびり和やかな場所で、家族に囲まれながら余生を過ごしたいものだ。

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