第162話

「皆様、コーベット領へようこそおいでくださいました」

「遠路はるばる御足労ごそくろうしていただき、大変ありがとうございます」


 コーベット男爵家の屋敷の玄関前で、俺たちへと感謝の言葉を告げる一組の夫婦。どちらも、ブラウンの髪に瞳をしたイケメンさんと美女さんだ。男性の方は穏やかで優しそうな雰囲気の人で、女性の方はふんわりした雰囲気の中に凛としたものを感じる人だ。


わたくし、ナタリーの父親で、コーベット男爵家当主のジーク・コーベットと申します」

「ナタリーの母親で、ジークの妻のゼノビア・コーベットと申します」


 こうしてナタリーさんのご両親を見ると、ナタリーさんの顔立ちや雰囲気がご両親譲りなのがよく分かる。コーベット男爵とゼノビア男爵夫人のいい所を、それぞれしっかりと受け継いでいるな。

 俺たちは丁寧な挨拶をしてくれた男爵夫妻に、一人一人ゆっくりと丁寧に挨拶を返していく。俺は一番最初に挨拶を返したんだが、その際に男爵夫妻や周囲に緊張感が漂っていた。何故なんだろうと思っていたら、見定める様な視線を向けていた男爵夫妻がナタリーさんの方に視線を向けて、一緒に頷いた事で緊張感が霧散した。

 それを見たジャック爺やイザベラ嬢たちはホッとしていたし、ナタリーさんは頬を赤らめて下を向いてしまっている。状況が全く分からない。本当に一体何なんだろう?

 そんな俺を置き去りにして、クララ嬢が挨拶を続けていってしまう。なので、ここは変に口を挟まない方がいいと自らを納得させて、大人しくしておく事にする。そのまま挨拶が続いていき、大トリとなるジャック爺たちの挨拶となる。


「丁寧な挨拶痛み入るの。儂の名はジャック・デュバルという。お二人のお嬢さんに、魔法を教えさせていただいておる魔法使いじゃ」

「私は、ベルナール公爵家の娘で、マルグリット・ベルナールと申します。ナタリーさんとは学院での生活のみならず、休日に共に遊んだりと、日頃から仲良くさせていただいております」

「私はカノッサ公爵家の娘で、イザベラ・カノッサと申します。ナタリーさんの学友で、共に魔法学院で勉学に励んでいます。今回領地へ長期滞在する事をお許しいただいた事、父や母共々心より感謝いたします」

「いえいえ、とんでもございません。寧ろこのような辺鄙へんぴな場所に、公爵家の方々が長く滞在していただけるだけでも、我々にとってはとても嬉しい事なのですから」

「コーベック男爵領は、決して辺鄙な場所などではありません。非常に自然豊かであり、食材や畜産品が美味しい素晴らしい領です。父も母もコーベック男爵領の食材や畜産品はお気に入りで、出来る事なら毎日食べたいと言っている程です。このコーベック男爵領は、アイオリス王国を支えてくれている、他国に誇れる自慢の領地です。どうぞお二人とも、胸を張ってください」

「「ありがとうございます」」


 イザベラ嬢の心からの熱弁に、男爵夫妻が深く頭を下げて一礼する。俺も何度かイザベラ嬢に食べさせてもらった事があるが、コーベック男爵領の食材を使った料理はもの凄く美味しかった。

 カノッサ公爵家の屋敷の厨房ちゅうぼうを任せられているハンス料理長も、非常に品質が良く美味しい食材がある場所は何処だと誰かに聞かれたら、コーベック男爵領だと即答すると言っていたくらいだ。公爵家の食を取り仕切る者がそこまで言うくらい、コーベック男爵領の食材や畜産品は素晴らしいのだ。

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