第156話

「もったいないな~。ウォルターのあの戦いも、劇の題材にしてもらえばよかったのに」

「二人からすれば羨ましい事でも、俺にとっては恥ずかしさの方が勝るんだよ」

「まあ、気持ちは分からんでもないけどな」

「だろ?」

「だが、一生に一度あるか分からない機会だからな。だからこそ、俺たちとしてはもったいないと思ってしまうだけだ」


 ジャンとマークと俺の三人で、いつもの様に世間話しながら情報交換していたら、話題はダミアンさんの劇団についての事になった。最初は劇団の目玉となる、ジャック爺が題材となる劇についての話から始まり、俺が劇の題材になる事についてまで話が広がっていた。

 既にジャンやマークが情報を知り得ている様に、王都は今、ジャック爺の劇についての話で盛り上がっている。流石は王都でも指折りの劇団の支配人、仕事も早ければ情報を広めていくのも早い。劇の初回公演はまだまだ先であるにも関わらず、王都に住む者たちは皆期待に胸を膨らませながら、待ち遠しい日々を過ごしている。


「それにしても、あの戦いには驚かされたぞ。実力者であるとは思っていたが、まさかあそこまでとはな」

「俺も流石にあれには驚いた。どう考えても、俺たちどころか現役の騎士たちよりも、頭一つ抜けてるだろ」

「確かにな。あの何時も冷静な親父が、見たことないくらいに興奮してたからな」

「先輩たちや後輩たちも驚いてたな。それに……」

「それに?」

「属性魔法への適性が低くとも、凄腕の魔法使いたちと渡り合う事が出来るって事を、皆あの戦いを見て理解したんだよ。それから、自分たちの努力が全然足りない事もな」

「あれから皆の雰囲気も顔付きもガラリと変わったし、鍛錬もより一層真剣に取り組み始めた」

「騎士学院も、この一週間で大きく変わったよな~。先生たちもウォルターの戦いに刺激を受けたのか、やる気を出し始めた生徒たちに熱心に指導してるしな」


 マークが言う様に、この一週間で騎士学院全体の雰囲気がガラリと変わった。今までは、騎士学院に通う生徒の大半にやる気が殆どなく、自分たちの未来に希望を持っていなかった。やる気のある生徒たちも鍛錬はするものの、一流の戦士や剣士を目指すという感じではなかった。

 だがあの闘技場での戦いの日から、誰もが瞳を輝かせながら、高みを目指して本気の鍛錬を始めた。それを見て、先生たちもくすぶらせていた熱き心を再び燃やし、自分たちの知識や経験を惜しみなく生徒たちに伝え、先生と生徒の枠組みを超えて師弟関係の様になっている。

 自分が切っ掛けでというのは少し気恥ずかしいが、あの戦いを見た事で何かが変わり、騎士の道に光を見出してくれたなら嬉しい限りである。そして魔法国家であるアイオリス王国で、魔法使いではない生き方に希望を持てる様になれば、この国はもっといい国になる。その最初の一歩を、騎士学院の皆が踏み出してくれた。

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