第157話

 闘技場でのウォルターの戦いに影響を受け、騎士学院全体で良い方向へと変化し始めている時、魔法学院でも同じ様に変化が起きていた。その変化は、一方から見ればいい変化ではあるが、また異なる一方から見れば悪い変化であった。


「この所、魔法使い至上主義の人たちの機嫌が日増しに悪くなってますね」

「そうね~。私としては気分が良いけど、これが長く続くと、他の子たちに影響が出るかもしれないわね」

「どうするんです?何か手を打つんですか?」

「そうしたい所だけど、関係者の私たちが何かすると、余計に機嫌が悪くなる可能性が高いわ」

「下手にこちらから手を出すと、実力行使をしてくる可能性すら出てくるからね。そうなったら、魔法学院も殺伐とした場所になるわね」


 ウォルターさんの戦いの影響が、魔法学院にまで及ぶのは予想の範囲内ではあった。けど、ここまで多くの人たちの心を変えるのは、少し予想外だったわね。良くて一・二割くらいの子たちが考えを変えると思っていたら、三・四割程の子たちが魔法使い至上主義から離反してしまったのよね。

 これには魔法使い至上主義の人たちも大いに焦ったのか、必死になって考え直す様に説得していたわ。だけど、離反した生徒たちの気持ちは変わらず、魔法使い至上主義の勢力は大きく弱体化したわ。

 私たちは、離反した生徒たちに心変わりした理由を聞いてみたのよね。そうしたら、ウォルターさんの戦いの他に、もう一つの理由があったのよ。それが、魔法競技大会が終わった後の、アホな男共の言動ね。

 アホな男共の事を好意的に見ていた人たちも、流石に闘技場内での戦闘の凄さは理解出来た様で、あの状況をアホな男共が切り抜けたとは思えないと感じていた。そこに、自分たちならばあの二人を倒す事が出来たという発言。さらにはウォルターさんの事を逆恨みして、グチグチと文句を言っている姿を見て、一気に気持ちが冷めてしまったとの事。確かにアホな男共のあの姿を見たら、気持ちが冷めてしまっても仕方ないわよね。


「離反した子たちについては、中立の立場にいる先輩たちにお願いして、中立派として保護してもらってるわ。私たちは、状況が落ち着くまでは静観するしかないわね」

「そうね。それが今私たちに打てる最善手だと思うわ」

「今は大人しくしているしかありませんか……」

「状況が悪化してしまうのならば、それも仕方ありませんね」


 幸いな事に、長期休暇まであと少しよ。長期休暇を間にはさめば、魔法使い至上主義の人たちも大人しくなっている…………と思うわ。最悪大人しくなっていなっておらず、実力行使をしてくるようならば、こちらも切り札を切らせてもらう事にするわ。その時に、アホな男共や、魔法使い至上主義の連中がどんな顔をするか楽しみだわ。


「フフ、フフフフフフ……」

「イザベラ。その笑い方、完全に悪役の笑い方よ」

「悪だくみが得意そうな方の笑い方でした」

「でも、イザベラ様がしても違和感がありませんでした」

「ちょっとナタリーさん、それどういう意味なんですか?」

「い、いえ。本当に似合っているなって……」

「うんうん、ナタリーさんの言う通り。イザベラにピッタリの笑い方だよね~。小さい頃から…………」


 ナタリーさんのいじりから、この場の雰囲気が明るくなったわ。私やクララもそれに乗っかって、楽しい話題に切り替えていく。クララに昔の事を色々と暴露されたけれど、マルグリット様とナタリーさんの顔に笑顔を戻ったのでよしとしましょう。ただ、いつかクララにこの件の仕返しは必ずするという事を、心の中のメモ帳に記しておいたわ。

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