第149話

「…………何故だ?その様な薄っぺらい盾一枚で、何故私の雷槍を防げる?」

「貴様も魔法使いならば、自力で解答を導き出してみよ」


 儂がやった事は至極単純な事。じゃが単純であればあるほど、その効果や厄介さを高める事もある。今回の場合で言えば、効果を非常に高めるというものじゃ。儂が生み出した魔力の盾は、一見すると薄い一枚の盾じゃ。しかし、実際は何枚もの魔力の盾が重なり合っておる、とても分厚い魔力の盾なんじゃよ。


「――――潰れよ」


 漆黒の雷槍の上空に、氷で形作られた巨人の上半身と、同じく氷で形作られた巨大なハンマーが生み出される。氷の巨人は、両手で巨大な氷のハンマーの柄を持って大きく振り上げ、漆黒の雷槍に向けて勢いよく振り下ろす。

 巨大な氷のハンマーは、漆黒の雷槍の柄をぶっ叩く。膨大な魔力同士がぶつかり合い、反発によって周囲にバチバチと放電が起こる。だが、徐々に拮抗状態が崩れていく。漆黒の雷槍の魔力が、特にハンマーと接している柄の部分の魔力が乱れ始め、その形を維持出来なくなっている。

 そして遂に、ハンマーが漆黒の雷槍の魔力を砕き、漆黒の雷槍の柄が砕け折れるかの様に真っ二つになる。漆黒の雷槍は、魔力を砕かれた事で完全にその形を維持できなくなり、スーッと消え去っていく。


「――――捻り潰せ」


 儂は、空を悠然ゆうぜんと飛んでおる二羽の氷の鷲と紺碧のドラゴンに、さらに魔力を込めて強化する。強化された二羽の氷の鷲と紺碧のドラゴンは、二匹の漆黒の蛇と漆黒のワイバーンに向けて加速し、距離を詰めて一気に仕掛ける。

 二羽の氷の鷲は翼を薄く鋭く変化させ、高速で二匹の漆黒の蛇を切り裂いて輪切りにする。そして紺碧のドラゴンは、二匹の氷の鷲と同じ様に爪や牙、翼や尻尾を強化して漆黒のワイバーンを蹂躙じゅうりんする。そして、二匹の漆黒の蛇も漆黒のワイバーンも、どちらも体を構成する魔力そのものを破壊され消えていく。


「……そんな、バカな。私は最強の魔法使いなのだ。お前の様な老いぼれに負けるはずがない。負けるはずがないのだ!!」


 若造の身体から、禍々しく冷たい魔力が溢れ出してくる。すると、若造の肌がどんどんと黒く染まっていく。一気に空気が重くなり、若造の濃厚な殺気がこの場に満ちていく。あれだけ理知的であった雰囲気が消え去り、獣の様な荒々しい雰囲気に変わってしまっておるの。


「ドラゴンを殺すのは私なのだ!!――――あの御方に祝福された私こそが!!」


 どうやら、若造は現実を受け入れられなかった様じゃな。あの御方とやらに選ばれたという事で、相当自分の腕に自信があった様じゃの。まあ若い魔法使いたちが相手だったならば、十分に暴れまわる事は可能ではあったの。


「オォオオオオオオ――!!」


 若造が雄叫びを上げて、再び空に巨大な魔法陣を展開する。あの御方とやらが力を貸しておるのか、人の領域を超えていると感じさせる、濃密で膨大な魔力を感じる。これほどの魔力で魔法を放たれたら、流石に守護の魔法であっても完全には止められん。少なくとも、怪我人が出る事は間違いないの。


「その魔法が、――――本当に発動出来ればじゃがの」

「…………なん、だと!?」

「魔法を使う際に気を付けねばならんのは、何も暴発や不発だけではない。魔法使い同士の戦いにおいて最も警戒しなくてはならんのは、魔法陣の逆算、つまりは乗っ取りじゃ」

「この展開された魔法陣は、あの御方の魔力で構成されている。貴様程度に逆算するのは不可能だ!!」

「そうは言うが、あの魔法はもう既にじゃぞ」

「戯言を!!…………な、何故?」


 上空の巨大な魔法陣は、若造の意思に反応する事なく沈黙したまま。若造は、茫然と漆黒の魔法陣を見上げる。儂は反抗してくる禍々しく冷たい魔力を力づくで抑え込み、さらに自分の魔力を上乗せして魔法を強化する。


「では、仕舞しまいじゃの。これにりたら、大人しく静かに暮らしていく事じゃな」


 儂はそう言って左手のゆびを鳴らす。それに反応した漆黒の魔法陣が発動し、超高電圧の漆黒の雷が生み出される。その漆黒の雷に儂の魔力を込めて混ぜ合わせ、一気に圧縮させていく。そして、高密度に圧縮された超高電圧の雷を、若造に向けて落とした。

 圧縮された漆黒の雷は、目にも止まらぬ速さで一気に若造へと迫り、その威力を遺憾なく発揮した。若造の左腕と左脚は完全に消し炭になり、胴体や右半身も大火傷しておる。若造は痛みに呻きながら、フラフラと地面へと落ちていく。


「ふむ、完全に消し炭にするつもりだったんだがの。あの御方とやらに、最後に邪魔されてしまったわい。儂もまだまだじゃの」

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