第140話

 大きな爆発によって闘技場内が土煙で充満する。闘技場内や、両殿下がどの様な状態なのか分からない。そんな中で、状況がさらに大きく動く。

 充満していた土煙が、何かに引き込まれる様に急速に動いていく。土煙が引き込まれていく先にあったのは、風と雷の二属性が混じり合った複合属性魔法によって生み出された、大きく太い一本の魔法の槍だった。そして魔法の槍が複合属性魔法であるという事は、あれはレギアス殿下が放った魔法という事になる。


とはの。よく考えられた一手じゃ」

「あれだけの魔法のぶつけ合いをしながら、もう一つの魔法を準備していたとはな。アルベルト殿下より彼の方が一枚上手だった様だな」


 流石に周囲の土煙を巻き取りながら進む魔法の槍の存在には、アルベルト殿下も嫌でも気付く。再び魔力を高め、光の上位属性魔法を放とうとする。術式を構築し、魔法陣を展開。そこから光のビームが現れる、という都合の良い事にはならない。光の上位属性魔法は不発に終わり、魔法陣がスーッと幻だったかの様に消えていく。ジャック爺が言っていた様に、最初の光のビームは火事場の馬鹿力で放てたという事なんだろう。


「さあ、ここが正念場じゃ」

「アルベルト殿下はどう出る?」


 上位属性魔法が不発に終わったアルベルト殿下は、直感で一つの決断を下した。それは、魔力の剣による迎撃だ。アルベルト殿下は魔力を右手に集め、格式高そうなロングソードを模した一本の魔法の剣を生み出した。そこから生み出した魔力の剣に魔力をさらに込めて、魔力の剣そのものを強化していく。そして、魔力の剣の柄を両手で持ち、ゆっくりと上段で魔力の剣を構える。

 その構えは素人の構えではなく、しっかりとした基礎を身に着けた者の構えだった。まあ恋は盲目状態であるといっても、英才教育を施された王子である事に変わりはないからな。この国は魔法国家ではあるが、身分の高い家に生まれた男の子は幼い頃に剣も習う。そしてそれは、王族や王子であっても例外ではない。

 アルベルト殿下はゆっくり静かに深呼吸を繰り返した後、迫りくる風と雷の二属性が混じり合った魔法の槍に向かって、上段に構えた魔法の剣を振り下ろす。


『オオオオオオ!!』


 魔法の槍の穂先と、魔法の剣の刃がぶつかり合う。アルベルト殿下は魔法の槍を切り裂くつもりで振り下ろしたのだろうが、魔法を切るのはそんなに簡単ではない。それも、実体のある金属の剣ではなく魔法の剣で切ろうというのなら、なおさら難易度が高くなる。それに基礎を学んだ程度で魔法を切れる程、剣術というのは甘くはない。

 徐々に徐々に、魔法の剣の刃に魔法の槍の穂先が食い込んでいく。魔法の剣の刃が欠けていく事にアルベルト殿下の魔力が抜けていき、魔法の剣の威力が落ちていく。それと同時に、魔法の槍の魔力への抵抗力も落ちていき、食い込む速度が上がる。そして、魔法の槍の穂先が魔法の剣の刃に半分程食い込んだ時、切断面から一気に大量の魔力が抜けてしまい、遂に魔法の剣の刃が魔法の槍の穂先に完全に切断された。

 そして魔法の槍はそのまま勢いを落とすことなく突き進み、アルベルト殿下の胸の中心へと吸い込まれていく。アルベルト殿下は、最後のあがきで胸の前に魔力障壁を展開し、魔法の槍の軌道を逸らそうとする。だが最早、その程度で魔法の槍は止まる事はない。魔法の槍は展開された魔力障壁を砕き、アルベルト殿下の胸の中心に触れた。それと同時に、魔道具が反応してアルベルト殿下の身を守る。

 魔道具が起動した事を確認した審判が右手を上げ、レギアス殿下の方へと向ける。それはレギアス殿下の勝利を示すものであり、同時に魔法競技大会の優勝校が、レゼルホルン魔法学院であると確定した瞬間であった。

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