第128話

 温室育ちの魔法使い。ジャック爺がそう断言した事に、この場にいる全員が納得の表情を浮かべる。言い得て妙というか、自然と納得が出来てしまう表現だからだろう。

 だが、今のアイオリス王国の魔法学院に在籍している生徒の中で、それなりの修羅場をくぐり抜けている者はほぼいないと言っていい。現に目の前で戦っている学生たちの中で、戦場経験の豊富な魔法使いたちがその身から放つ、独特の雰囲気を感じる事がないからだ。


「じゃからこそ、イザベラ嬢たちも温室育ちから一歩抜け出さなければならん」

「……はい」

「私たちも殿下たち同様に、弱い魔物を相手にした事はあっても、戦場という命を懸けた場に踏み入れた事はない。安全な場所でぬくぬくと守られてきた、温室育ちの魔法使いですからね」

「だからこそ、自ら進んで厳しい環境に身を置かなければならない、ですよね」

「そうじゃ。自分を追い詰め、環境に苦しめられ、命の危機に瀕する事で、魔法使いとしての殻を破る事が出来る。そして殻を破る事が出来れば、その先どんな事があったとしても、揺らぐ事のない精神を手に入れられるじゃろう」


 ジャック爺から厳しい指摘をされるが、イザベラ嬢たちは落ち込む事なく、逆にやる気をみなぎらせている。魔法使いとしてまだまだ伸びしろがあるイザベラ嬢たちを、少し羨ましく思う。

 だが他人の良さを羨ましがっても、自分が強くなるわけじゃないからな。今まで通りに、自分の強みをひたすらに磨いて極め、多種多様な魔法を使う者よりも強くなればいいだけの話だ。


「おっ、ジャック爺。次はレゼルホルン魔法学院の生徒たちの試合だよ」

「レゼルホルンか。去年も良き生徒たちが集まっておったが、今年はどうじゃろうな」

「今年も去年と同じ生徒が出場してるの?」

「同じ生徒もおるが、二人ほど違う生徒がおるの。レゼルホルンはアイオリス王国の副都ふくとじゃからな。才能ある人材という意味では王都に引けを取らん。隠れた才能を持つ者が、レゼルホルンにおったとしても不思議ではない。あの二人も、恐らくそういった者たちだったんじゃろう。だからこそ、レゼルホルンの代表として選ばれたという事じゃな」

「確かにそうですな。賢者様やウォルターも、共に辺境であるベイルトン出身の隠れた強者でした。王都にだけ優れた人材がいる訳でも集まる訳でもない。賢者様の言う様に、レゼルホルンにも同じ様に優れた人材が集まっていたとしても、何ら不思議な事ではありませんな」


 司会の紹介と共に、闘技場内に試合をする二校の生徒たちが入場してくる。レゼルホルンの生徒たちは堂々と胸を張って入場しており、王者の風格といったものを感じさせる。流石は副都の魔法学院の生徒たちだと、市井の観客も貴族の観客たちも感心している。

 だが、そんなレゼルホルンの相手校である、ニースレイノ魔法学院の生徒たちも負けてはいない。王者の風格を漂わせているレゼルホルンの生徒たちに対して一歩も引かず、一切萎縮いしゅくした様子を見せる事なく、こちらも堂々とした振る舞いで入場してくる。

 そして、ニースレイノの生徒たちが見せるその姿に、観客たちは驚きと共に期待を寄せた。もしかしたらこのカードは、面白い試合になる好カードになるかもしれないと。

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