第129話

 レゼルホルン魔法学院とニースレイノ魔法学院の試合は、初戦から白熱した魔法戦闘となった。レゼルホルン魔法学院の生徒の方は、速度重視の魔法使いの男性。ニースレイノ魔法学院の生徒の方は、威力重視の魔法使いの女性だ。片方からは、風や雷の属性魔法が点で空気を切り裂く様に加速して相手に迫り、もう片方からは、火や氷の属性魔法が面で空間を埋め尽くすで大きさで相手に迫る。一見すると速度重視の魔法使いが有利の様に思えるが、実際にはそんな簡単な話ではない。

 速度重視の男性生徒の魔法は、速度はあっても威力が低い。相手の魔法使いに直撃しても、一撃では決め手に欠ける状態となっている。対する威力重視の女子生徒の魔法は、威力はあっても速度が遅い。相手に直撃すれば一撃で決めきる事が出来るが、速度が足りずに直撃する可能性は低い。つまり、互いの魔法には一長一短があるという事だ。

 ただ、互いの魔法がぶつかり合う、ぶつけ合うという時においては、威力重視の女子生徒の方が有利になるだろう。威力重視の女子生徒の放つ魔法の威力に、速度があっても威力が低い男子生徒の魔法では、対抗する事は難しいと言わざるを得ない。


「今の所、威力重視で魔法を使う生徒の方が、僅かに優勢といった感じですね」

「そうじゃな。しかし、速度重視で魔法を使う生徒に隠し玉の様な魔法があれば、戦況も一気にひっくり返せるの」

「そして、そのまま一気に押し込めることが出来れば、速度重視で戦う男子生徒の方が勝つ可能性が高いわね」

「だが男子生徒が気を付けなければいけないのは、威力重視の女子生徒の方にも、隠し玉がないとも限らんという点だ」

「戦っている時に一番してはいかんのは、相手を出し抜いてやったとか、勝ったと確信したりする事じゃな。その瞬間、確実に身体や意識に隙が生まれ、相手からの反撃に対する反応が遅れるからの」

「賢者様にも、何か苦い経験が?」

「沢山ある。魔境においても、戦場においても、儂は苦い経験を色々としてきた。それこそ、死にかけた事も何度もある」

『!?』

「先程言った事は、まあ儂の苦い経験からの言葉じゃな。魔物じゃろうと人相手じゃろうと、戦闘においては常に冷静でいなくてはならん。戦闘とは命の奪い合いじゃ。相手を負かして喜ぶ、子供同士の喧嘩ではない。それを理解出来ていない者程、戦場では早死にしていく」

『…………』

「だからと言って、感情を捨てろと言う話ではないぞ。要は戦場で戦っておる間は、常に自分をりっせよというだけの事じゃ」


 ジャック爺から告げられた戦う者としての教訓を、イザベラ嬢たちは深く心に刻みつけている。カノッサ公爵やアンナ公爵夫人は、自分を律するという部分において、貴族の義務ノブレス・オブリージュに通ずる所があると共感している。

 俺も、昔からこの話は聞き飽きる程聞かされてきた。そのお蔭で魔境でも生き延びてこれた。何度も聞かされる話であっても、それをしっかり聞いて心に刻み込んでいるかいないかでは、その時になって大きな差が生まれる。それが生死を分ける様な場面であるのなら、尚更先人の言葉というものは素直に聞いておいた方が良い時もある。

 そんな事を考えていると、観客たちの一際大きな歓声が響き渡る。意識を試合の方に戻すと、二人の学生たちが勝負に出た所であった。どうやら、速度重視の男子生徒も威力重視の女子生徒も、互いに隠し玉を持っていた様だ。互いが互いに隠していた牙を、相手を確実に仕留めるという意思の元、相手に向かって同時に魔法を放った。

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