第127話

 闘技場の中を、色とりどりの魔法が飛びう。ぶつかり合って相殺して消えていく魔法もあれば、どちらかがどちらかを圧倒したりと、派手な魔法戦闘に身分関係なく歓声を上げている。

 それにしても、各校の魔法学院の生徒たちもまた、王都校に比べて遜色ない質だな。流石に上位属性魔法を使う事が出来る者はいないようだが、どの生徒たちも魔力が洗練されており、日々の鍛錬を怠っていないのがよく分かる。

 それは、ジャック爺の様子からも伝わってくる。各都市の学生たちに鋭い視線を向け、気になった生徒の一挙手一投足に集中し、賢者としての目で採点をしている。だがそんなジャック爺も、一つの学院の生徒たちの事は真剣には見ない。言うまでもない事だが、王都校の出場選手たち、つまりはアルベルト殿下や側近たちの事だ。


「日々の鍛錬を欠かさずに行っているのは、素直に素晴らしい事だと認めよう。しかし、その密度が薄い。薄すぎるんじゃ」

「各都市の魔法学院の生徒たちに比べると、才能に頼っての力押しなのが見て分かるね。それに魔法を構築する時にも、魔法を相手に放つ際にも工夫がないね。あれだと、戦場経験、人と人同士の殺し合いを経験した魔法使いたち相手には通じない」

「そうじゃの。真面に相手をされたとしても五分から十分、相手が悪ければ数十分遊ばれた後に、無残に殺されて終わりじゃろうな」

「でも今の所、殿下や側近たちは戦場に出そうにないんでしょ?陛下がそう言ってたって、ジャック爺が俺に教えてくれなかったけ?」

「そうじゃな。余程の事がない限りは戦場へは送らんと、儂の目の前で馬鹿な事を言いおったの。儂も一度は戦場に出る事で、実際の魔法戦闘を体験させた方がいいと進言したんじゃ。王子たちに何もさせないとしても、戦場の空気だけは感じさせるべきじゃとな」


 魔物相手であっても人相手であっても、実戦を経験した者としていない者には大きな壁があるからな。学院でどれだけ魔法の腕を磨いたとしても、それが実戦で正しく発揮される事はほとんどないと言っていい。その理由は、実戦には傷の痛みや死の恐怖が常に付き纏うからだ。

 戦場における傷の痛みと死の恐怖は、状況判断を鈍らせたり冷静さを失わせる。そして冷静さを失った魔術師など、相手にとっていいカモでしかない。カモにされない為には揺るがぬ精神を手に入れる必要があり、実戦経験を多く積んでいく事でしかそれは成し得ない。


「その様な話があったとは。しかし、実際に戦場へ行ったという話は聞いていません。という事は……」

「先程も言った様に、王がその必要なしと判断し、儂の進言を聞き入れなかったんじゃ。確かに、儂の進言を全て聞き入れる必要はないの。じゃがこの進言に関しては、大臣たちも珍しく儂側に立って王を説得しておった。臣下としても、魔物相手であっても戦場を知らぬというのはまずいと思ったんじゃろうな」

「という事は、殿下や側近たちって実戦経験なしなの?」

「正確に言うならば、緊張感のある戦場で、それなりの強さの魔物を相手にした事がない、じゃな。王都近郊にある草原などに現れるような弱い魔物や、合同訓練をおこなった森に出てくる魔物程度では、正直に言ってあれであったじゃろ?」

「肩慣らしにもならなかったね」

「つまり王子たちは確実に勝てる魔物や状況でしか、戦闘を行った事がないって事ですか?」

「そうじゃ。ハッキリと言ってしまうが、王子たちは温室育ちの魔法使いなんじゃよ」

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