第126話

 魔法学院に通う生徒たちにとって待ちに待った一大行事である、魔法競技大会が開催されるその日となった。俺やジャック爺、それからクララ嬢たちは、カノッサ公爵家の皆さんと共に、魔法競技大会の舞台となる闘技場にいる。それも、上位貴族やその貴族が連れてきた者しか入れることが出来ない、上位貴族たちに用意された個室にだ。

 魔術競技大会が開催されている間は、要職に就いている方々や、普段忙しくしているカノッサ公爵も仕事から解放される。魔法競技大会はただ魔法を競い合う大会というだけでなく、貴族の子息や子女にとっては、自身の価値を周囲に示す絶好の場でもあるからだ。

 この魔法競技大会に出場するというだけで、魔法使いとして優秀である事は間違いない。それだけで貴族たちから一目置かれるが、良い成績を残せばさらに評価が上がる。そうなれば、上位貴族との良い縁に恵まれたり、将来の就職先の幅も広がるとの事。優勝でもした日には、色々な貴族から声が掛かり、人生が激変したなんて話もあるそうだ。


「しかし、今年は殿下たちが出場しているからな。どうなる事やら」

「そうよね~。下手に勝ってしまったら、それこそ本人からしてみたら後が怖いでしょうしね。陛下から何か一言でもあってくれたら、相対する子も全力を出せるんでしょうけど…………」

「まあ無理じゃろうな。昔から子供に甘いし、本人も王族のプライドが高いしの。学生たちに救いがあるとしたら、プライドが高くとも、無暗に人の命を奪う事はない所じゃの。第一王子の方はどうか知らんが、少なくとも王はそこまで過激ではない」

「それを加味したとしても、王族を相手にした時に本来の力を発揮出来るかというと、難しいと言わざるを得ないでしょうね」


 そんな会話をしていると、司会者と解説者の進行が始まり、闘技場内に魔法学院の生徒たちが各校順番に入場してくる。入場してくる魔法学院の生徒たちに、観客席から大きな声援が送られ、それに生徒たちが手を振って応える。そして、最後に王都校の生徒たちが入場してくる。


「もの凄い歓声ですね。あれが、アルベルト殿下に将来の側近たちですか」

「私たちからすれば、あんなののどこか良いのか分かりませんけどね」

「イザベル。家では幾らでも言っていいけど、外では控えなさいな」

「……はい」


 それにしても、アルベルト殿下にその側近たちはもの凄い人気の様だな。そりゃ次期王と目されている継承権一位の第一王子に、代々要職に就いてきた家系の後継者たち、さらに全員イケメンともなれば、市井しせいの女性たちからも人気が出るか。それに女性だけでなく、男性たちからも歓声が送られているのを見るに、一定数の男性からも支持されている様だ。

 全ての魔法学院の生徒たちが闘技場に入場し終わると、一際豪華な観客席に座っていた王が立ち上がる。そして魔法で声を拡声させ、魔法競技大会の歴史を教頭先生や校長先生の様に長々と語ってから、魔法競技大会開始の宣言を発した。宣言を聞いた観客たちは、先程もよりもさらに大きな歓声を上げる。今ここに、学生で一番優れた魔法使いである事を示す大会である、魔法競技大会が幕を開けた。

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