第125話
「まずは、ごく自然に魔力操作や制御が出来る様にし、術式を安定化させる方向に集中するべきじゃな。それが出来る様になれば……ほれ、この通りじゃ」
そう説明するジャック爺の杖の先端に、幼い頃に見たあの時と同じ様に、術式が展開されて魔法陣が完成する。しかし、あの時とは違い直ぐに魔法が発動する事はない。杖の先端の魔法陣は、魔力が波風一つ立っていない穏やかな海の様に安定しており、暴発する可能性など万に一つもない。
「魔力操作や制御を極めていけば、上位属性魔法の術式であっても安定するんじゃ。ここまで安定させられる様になれれば、不発に終わったり、暴発する事はほぼないじゃろう。そして、上位属性魔法の術式を安定させられる様になっておるのならば、通常の属性魔法などは簡単に制御出来る様になっておる。そして、この領域に足を踏み入れた時、お嬢さんたちは一流の魔法使いへと至るじゃろう」
『!!』
「そういう事じゃから、上位属性魔法を習得したお嬢さんたちがまず力を入れるのは、魔力操作と制御の二つじゃな」
『はい!!』
「ウォルター、見本を見せてやってくれんかの?」
「は?俺?」
「そうじゃ。この場にいる魔法使いの中で、儂に次いでもっとも魔力操作と制御に優れておるのは、他でもないウォルターじゃからの」
「そもそも俺は魔法使いじゃないよ?しいて言うなら、魔法が使える剣士ってとこじゃない?」
「何を言っておる。魔法が使えるなら魔法使いじゃろうが。身体強化の魔法で頼むぞ」
「…………はぁ~。分かった、分かりましたよ。やりますよ」
意識をサッと切り替えて、身体強化の魔法を発動する。何時もと変わらぬ魔力操作に、発動後の魔力制御を行っての魔法の発動。全身に魔力が循環して巡っていき、俺の身体を通常の何倍にも強化され、さらに視覚や聴覚などの各種感覚も強化されていく。
この身体強化の魔法を完全に使いこなせるようになるまでは、強化された身体の動きが制御出来ず色々と苦労した。まあそれらの苦労は、今となってはいい思い出だけどな。
「これが、魔力操作と制御を極めたものが使う身体強化の魔法じゃ。身体全体を循環する一切無駄のない魔力に、少ない魔力で身体を効率的に強化しておる。これこそ、魔法を使う者が最初に目指すべき境地じゃ」
「本当に淀みのない、実に見事な魔力操作に制御だ」
「ええ、私もそう思うわ。これほどの身体強化の魔法は、賢者様以外で初めて見たわ。本当に凄いわ」
カノッサ公爵とアンナ公爵夫人が、そう言って俺の魔力操作や制御を誉めてくれる。だが俺としては、自分が使える数少ない武器を磨いていっただけであって、色々な属性魔法を使える魔法使いより凄いとは思えない。
現に、ジャック爺の方が俺より凄いからな。年齢の事もあって、近接戦闘は力よりも技になっているとはいえ充分にこなせるし、様々な属性魔法や上位属性魔法を使いこなせる。ジャック爺が三十年程若かったら、俺の主戦場である近接戦闘でも一勝すら出来ないだろう。それくらい、ジャック爺は他の魔法使いより抜きんでている存在なんだ。
「ありがとう、ウォルター。もうよいぞ」
「了解」
「では、目指すべき目標が分かった所で、早速鍛錬を始めていこうかの」
『はい!!』
「ウォルターも、お嬢さんたちに色々と助言してやってくれ」
「分かった」
イザベラ嬢たちが、魔力操作と制御の鍛錬を始めていく。俺はジャック爺と共に、一人一人に合った助言をしていく。それと同時に、俺自身も魔力操作と制御の鍛錬を行い、さらに一つ上の領域にいける様に高めていく。この先、ジャック爺並みの魔法知識や技量を持ち、近接戦闘も一流の剣士や戦士並みにこなせる
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